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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第四章
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翠と三郎太──別れ

 翠は頼久との約束を守る為に、三郎太に屋敷に残るように伝えると立ち去ろうとした。

すると

「そなたの名は、なんと申す?」

翠が消える寸前、頼久が叫んだ。

翠は小さく笑うと

「翠」

とだけ答えた。

「また会えるか?」

叫んだ頼久に、翠は笑顔だけ残して消えていった。


 翠が消え去ると、一気に張り詰めた空気が緩む。

晶は、無意識に止めていた息をゆっくりと吐き出し、頼久を強く抱き締めた。

「頼久、大義でした」

「母上……」

自分を慈しみ愛してくれる母の言葉に、頼久は笑顔を浮かべて

「母上や三郎太のお陰です」

と答えた。

頼久は、頼政を父だとは思ってはいるが、それは血が繋がった父と認識しているだけで、自分を育ててくれたのは三郎太だと思っていた。

父のような愛情を惜しみなく与え、自分の盾でいてくれた存在。

父と呼ぶには歳が近いが、兄と呼ぶには自分への惜しみない愛情の深さにしっくりこなかった。

そんな頼久の考えが分かったのか

「頼政殿……」

晶は静かに頼政に向き直り

「今回の件は全て、あなたが引き起こした事です」

と静かに告げた。

すると頼政は顔を真っ赤にして

「黙れ! 女風情がわかったような口をきくな!」

と叫んで手を挙げた。

その瞬間

「父上、もうお止め下さい」

頼久はそう言うと、真っ直ぐに頼政を見上げた。

 その時、頼政はもう自分には力が無いことを悟った。

鬼神の守護がある頼久に、生き残った者たちは平伏していたのだ。

この日を境に、藤原家の当主が入れ替わることになった。

 理由は様々あるが、一番は、頼政がその後間もなく、原因不明の病によりこの世を去ったのだ。

あまりにも呆気ない人生の幕引きに、領民たちは口には出さなかったが、鬼神の祟りではないかと囁いていた──



 頼政から頼久に代替わりすると、頼政によって荒れていた領地は、晶の後ろ盾を受けながら、頼久が平和で豊な領地へと変えた。

頼久が統治した領地は、後の世にも語られるほどに豊だったという。


 そして三郎太は、頼久が伴侶を得て家族を持つ頃、ひっそりとお屋敷を後にした。

その時、晶も三郎太と共に、三郎太が生まれ育った村に来ていた。

それは頼久より

「母上、もう……私は大丈夫です。

三郎太について行き、好きなように生きられたらいかがでしょう?」

そう言われ、晶は北の方という身分を捨て、三郎太と共に屋敷を後にしたのだ。


 久しぶりに帰省した村はひっそりとしており、あの二度目の惨劇の後、誰も寄り付かなくなったらしい。


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