友頼……死す
「はぁ? そんなの決まってるだろう?
同じ顔は、二つも要らない」
頼政の言葉に、三郎太は息を飲んだ。
「あいつさえ生まれなければ、母上はずっと私の傍に居てくれた。
翡翠だって……俺だけなら」
頼政は狂気を孕んだ笑みを浮かべた。
「全部、全部……俺のものだった───」
その言葉に、三郎太は首を振った。
「狂ってる……。
例え若様を殺しても翡翠様は戻らないし、あなたの母上だって帰らない!
むしろ、あんたのそんな姿を見たら……涙を流して悲しむに決まってる!」
「うるさい! 黙れ!!」
怒号と共に頼政が抜刀し、鋭い刃が振り上げられた。
『キィィィーンッ!』
金属がぶつかる高い音が響き、三郎太の周囲に風が巻き起こった。
砂埃が舞い、やがて風が静まると、そこに立っていたのは“よし”ではなく──翠だった。
「翡翠!」
頼政が歓喜に震える。
女性の着物をまとった翠は、いつも以上に翡翠に似て見えた。
だが翠は冷たく一瞥し、鼻で笑うと
「はぁ? 誰が翡翠だよ。俺は翠だ!」
と言うと、着物の合わせを掴んで腕を出した。
そこからは平らな胸と、鍛えられた筋肉が覗いた。
「……女じゃ、ない……?」
頼政が動揺して手を伸ばすが、翠はその手を軽々と払いのけた。
「気安く触るな!」
その声と同時に空気が震え、場の空気がピリピリと張り詰める。
その時、頼政の身体が翠の力で動けなくなる。
まるで、見えない縄で縛られているようだった。
翠は頼政に暴行され、動けないまま倒れている三郎太に歩み寄り、口元に薄く笑みを浮かべた。
「……随分、イケメンになったな」
そう呟くと、刀で縄を切り、手際よく三郎太の拘束を解いた。
「さて──うちのお荷物は連れて帰るからな」
翠が三郎太を脇に抱えた、その瞬間だった。
「この、化け物がっ!」
背後から村長が叫び、刀を振り上げて走り込んできた。
──しまった、油断した。
翠が反転し、三郎太を庇おうとしたその瞬間、
「翠!」
聞こえるはずのない声が響いた。
そこには、翠の前に立ちはだかり刃を受け止めた友頼の姿があった。
「ど……して?」
翠の顔から血の気が引く。
頼政の嘲笑が屋敷に響く。
「飛んで火に入る夏の虫とは……お前のことだな、友頼!」
翠は急いで三郎太を安全な場所に下ろし、崩れ落ちた友頼を抱き締めた。
「翠……無事か?」
血を流しながら、友頼はかすかに笑う。
「なんで……なんで此処にいるんだ……?」
翠の叫びに
「ごめんな……翠。お前たちが心配で……」
小さく笑う友頼が、もう助からないと告げていた。
翠は首を振りながら
「俺は……お前じゃないと死なないのに……」
小さく呟いた声が震える。
「翠……、私の我儘に付き合わせて……すまなかった」
その声は震え、涙が滲んでいた。
翠の瞳からは、滝のように涙が流れ落ちる。
その頃、三郎太は動けない身体を地面に倒し、悔しさに歯を食いしばっていた。
──助けたいのに……また、助けられないのか!
唯一動く手が、悔しさで土を握りしめる。
「友頼、共に逝こう……」
そっと友頼の頬に、自分の頬を重ねた。
血に濡れた刀を握った手を、友頼がゆっくりと翠に向けて刺そうとした次の瞬間、頼政の刃が友頼の心臓を背後から貫いたのだ。
「させぬ! こやつも俺のものだ!」
ズルリと、友頼の身体から力が抜けていく。
「すま……ぬ……翠……」
悲しみに染まる瞳が翠を見つめ、刀を握った手は力なく落ちた。
刃が床に当たり、乾いた音が響いた。




