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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第四章
79/120

友頼……死す

「はぁ? そんなの決まってるだろう?

同じ顔は、二つも要らない」


頼政の言葉に、三郎太は息を飲んだ。


「あいつさえ生まれなければ、母上はずっと私の傍に居てくれた。

翡翠だって……俺だけなら」

頼政は狂気を孕んだ笑みを浮かべた。

「全部、全部……俺のものだった───」


その言葉に、三郎太は首を振った。

「狂ってる……。

例え若様を殺しても翡翠様は戻らないし、あなたの母上だって帰らない!

むしろ、あんたのそんな姿を見たら……涙を流して悲しむに決まってる!」

「うるさい! 黙れ!!」

怒号と共に頼政が抜刀し、鋭い刃が振り上げられた。


『キィィィーンッ!』

金属がぶつかる高い音が響き、三郎太の周囲に風が巻き起こった。

砂埃が舞い、やがて風が静まると、そこに立っていたのは“よし”ではなく──翠だった。


「翡翠!」

頼政が歓喜に震える。

女性の着物をまとった翠は、いつも以上に翡翠に似て見えた。


だが翠は冷たく一瞥し、鼻で笑うと

「はぁ? 誰が翡翠だよ。俺は翠だ!」

と言うと、着物の合わせを掴んで腕を出した。

そこからは平らな胸と、鍛えられた筋肉が覗いた。

「……女じゃ、ない……?」

頼政が動揺して手を伸ばすが、翠はその手を軽々と払いのけた。


「気安く触るな!」

その声と同時に空気が震え、場の空気がピリピリと張り詰める。

その時、頼政の身体が翠の力で動けなくなる。

まるで、見えない縄で縛られているようだった。


 翠は頼政に暴行され、動けないまま倒れている三郎太に歩み寄り、口元に薄く笑みを浮かべた。

「……随分、イケメンになったな」

そう呟くと、刀で縄を切り、手際よく三郎太の拘束を解いた。


「さて──うちのお荷物は連れて帰るからな」

翠が三郎太を脇に抱えた、その瞬間だった。


「この、化け物がっ!」

背後から村長が叫び、刀を振り上げて走り込んできた。


──しまった、油断した。


翠が反転し、三郎太を庇おうとしたその瞬間、

「翠!」

聞こえるはずのない声が響いた。

そこには、翠の前に立ちはだかり刃を受け止めた友頼の姿があった。


「ど……して?」

翠の顔から血の気が引く。

頼政の嘲笑が屋敷に響く。

「飛んで火に入る夏の虫とは……お前のことだな、友頼!」


翠は急いで三郎太を安全な場所に下ろし、崩れ落ちた友頼を抱き締めた。

「翠……無事か?」

血を流しながら、友頼はかすかに笑う。


「なんで……なんで此処にいるんだ……?」

翠の叫びに

「ごめんな……翠。お前たちが心配で……」

小さく笑う友頼が、もう助からないと告げていた。

翠は首を振りながら

「俺は……お前じゃないと死なないのに……」

小さく呟いた声が震える。

「翠……、私の我儘に付き合わせて……すまなかった」

その声は震え、涙が滲んでいた。


翠の瞳からは、滝のように涙が流れ落ちる。

その頃、三郎太は動けない身体を地面に倒し、悔しさに歯を食いしばっていた。


──助けたいのに……また、助けられないのか!


唯一動く手が、悔しさで土を握りしめる。


「友頼、共に逝こう……」

そっと友頼の頬に、自分の頬を重ねた。

血に濡れた刀を握った手を、友頼がゆっくりと翠に向けて刺そうとした次の瞬間、頼政の刃が友頼の心臓を背後から貫いたのだ。


「させぬ! こやつも俺のものだ!」


ズルリと、友頼の身体から力が抜けていく。

「すま……ぬ……翠……」

悲しみに染まる瞳が翠を見つめ、刀を握った手は力なく落ちた。

刃が床に当たり、乾いた音が響いた。


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