嵌められた罠②
『バシャッ』
水を掛けられて、三郎太は目を覚ました。
両手は拘束され、土間に寝かされている。視線の先に、二度と顔を見たくない相手があった。
前髪を掴まれ、顔を持ち上げられる。
「久しいな、三郎太」
あの日からずっと……殺してやりたいほど憎い人物が、ここにいる。
「頼久の側仕えをしてりゃあ、こんな目に遭わなかったのに。馬鹿なヤツだな」
頼政は吐き捨てると、三郎太の腹を蹴り上げた。
「ゴボッ……ゲホッ……」
咳き込み、倒れる三郎太の頭を踏みつけながら頼政は問いかける。
「で? 友頼はどこだ」
三郎太は咳を震わせて、答えた。
「知り……ませ……ん」
頼政は爪先で三郎太の顔を押し、唾を吐きつける。
「はぁ? 知らないわけないだろう。お前らがいつも、三人分の食料を調達しているのは知っているんだよ」
耳に突き刺さるような言葉。
「この村はな……罪人を生かしてやる代わりに、お前らが現れたら油断させて俺に報告するようにしてあるんだよ」
ひと言ひと言が、石を突き刺すように重かった。
ギッと頼政を睨み上げる三郎太へ、頼政は髪を掴んで持ち上げた。
「その生意気な目が気に食わなかったんだよ。なぁ、くり抜いてやろうか?」
小さな笑みを浮かべながら言う頼政。
三郎太は静かに吐き捨てた。
「そんなに、若様が怖いですか?」
頼政の顔が歪む。
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!」
答えれば答えるほど、拳が飛んだ。無抵抗の身体に蹴りが降り注ぐ。
「殿! おやめ下さい! これ以上は、死んでしまいます!」
よしの声が震えた。頼政は舌打ちをして刀を鞘に戻す。
「お前は黙って見ていろ。これは“罰”だ」
視界は霞み、痛みと怒りが熱を帯びていく。
助けの声が伸びる――が、三郎太の目には、よしの着物が見えたままだった。罠に嵌めた女と同じ着物。
「なんだよ。罠に嵌めたくせに、助けるのか? 殺せよ。俺は、絶対に口を割らない!」
三郎太が叫ぶと、頼政は抜刀して振り上げた。
だがその刹那、よしが前に立ちはだかる。
「今、彼を殺したら、殿が探している二人は逃げてしまいます!」
よしの声が、何処か落ち着いていた。頼政は一瞬戸惑い、静かに刀を鞘に納めた。
「お前は大事な人質だからな……」
頼政は背を向け、歩き去る。三郎太は唇を噛み締め、言葉を振り絞る。
「何でだよ! 若様は何も望んでいないのに! なんでそんなに、若様の命を狙うんだよ!」
その問いかけに、頼政はゆっくりと振り返り──
不敵に笑った。




