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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第四章
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嵌められた罠②

『バシャッ』

水を掛けられて、三郎太は目を覚ました。

両手は拘束され、土間に寝かされている。視線の先に、二度と顔を見たくない相手があった。


前髪を掴まれ、顔を持ち上げられる。

「久しいな、三郎太」

あの日からずっと……殺してやりたいほど憎い人物が、ここにいる。


「頼久の側仕えをしてりゃあ、こんな目に遭わなかったのに。馬鹿なヤツだな」

頼政は吐き捨てると、三郎太の腹を蹴り上げた。


「ゴボッ……ゲホッ……」

咳き込み、倒れる三郎太の頭を踏みつけながら頼政は問いかける。

「で? 友頼はどこだ」


三郎太は咳を震わせて、答えた。

「知り……ませ……ん」


頼政は爪先で三郎太の顔を押し、唾を吐きつける。

「はぁ? 知らないわけないだろう。お前らがいつも、三人分の食料を調達しているのは知っているんだよ」


耳に突き刺さるような言葉。

「この村はな……罪人を生かしてやる代わりに、お前らが現れたら油断させて俺に報告するようにしてあるんだよ」

ひと言ひと言が、石を突き刺すように重かった。


ギッと頼政を睨み上げる三郎太へ、頼政は髪を掴んで持ち上げた。

「その生意気な目が気に食わなかったんだよ。なぁ、くり抜いてやろうか?」

小さな笑みを浮かべながら言う頼政。


三郎太は静かに吐き捨てた。

「そんなに、若様が怖いですか?」


頼政の顔が歪む。

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!」

答えれば答えるほど、拳が飛んだ。無抵抗の身体に蹴りが降り注ぐ。


「殿! おやめ下さい! これ以上は、死んでしまいます!」

よしの声が震えた。頼政は舌打ちをして刀を鞘に戻す。

「お前は黙って見ていろ。これは“罰”だ」


視界は霞み、痛みと怒りが熱を帯びていく。

助けの声が伸びる――が、三郎太の目には、よしの着物が見えたままだった。罠に嵌めた女と同じ着物。


「なんだよ。罠に嵌めたくせに、助けるのか? 殺せよ。俺は、絶対に口を割らない!」

三郎太が叫ぶと、頼政は抜刀して振り上げた。


だがその刹那、よしが前に立ちはだかる。

「今、彼を殺したら、殿が探している二人は逃げてしまいます!」

よしの声が、何処か落ち着いていた。頼政は一瞬戸惑い、静かに刀を鞘に納めた。

「お前は大事な人質だからな……」


頼政は背を向け、歩き去る。三郎太は唇を噛み締め、言葉を振り絞る。

「何でだよ! 若様は何も望んでいないのに! なんでそんなに、若様の命を狙うんだよ!」


その問いかけに、頼政はゆっくりと振り返り──

不敵に笑った。

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