三郎太の決意
「はい。なんとなく·····ですが、若様に何かあったのではないかと思うのです」
鬼一族の母を持つ三郎太は、人の機微に敏感だった。
そして·····同じ鬼一族が故に、翠が翡翠と対なのが三郎太にはわかったのだ。
しかし、三郎太の母、民は鬼一族であることを隠して結婚し、子を産んだ。
民は鬼一族でも血は薄く、ほとんど能力はなかった。また、三郎太の兄二人には鬼の能力が受け継がれなかった。
それ故に、母 民は子供たちにその事実を伝えなかったのだ。
隔世遺伝なのか、目の前で翡翠の死を見たからなのか───
皮肉なものだ。
あの日、俺は鬼一族の力が覚醒した。
憧れだった翡翠様の悲惨な姿、若様の慟哭──それを見せつけられて、
俺の中の何かが粉々に砕けた。
三郎太は、目を閉じあの日を回想した。
そしてその時、頼政の身体に渦巻くドス黒い影が見えたことも·····
───三郎太の能力は、人の善悪が見えるのだ
そのお陰で、頼久に近付く悪意に気付いて排除して来た。
そして頼久もまた、翡翠の力を受け継いだのだろう。
自分にとっての敵を見分けられるようだった。
三郎太は、頼久にその力は晶と三郎太にしか言ってはいけないと教えた。
そして晶にも、その力を隠し通すように頼久に言い聞かせるようにお願いした。
「父上にもダメなのか?」
成長した頼久の問いに、晶は狡いと思いながらも
「父上に知られたら、頼久を嫌うかもしれぬ」
と伝えた。
「頼政様の周りにある黒いモノのが、頼久様を嫌わせてしまうのです」
「あの黒い霧が?」
晶には見えない、三郎太と頼久だけが見える頼政の身体を覆う黒い霧。
三郎太は、あれが殺された人達の怨みの念だと悟った。
祓う事も出来たが、祓ったとて、直ぐに新しい念を巻き付けて来る。
翡翠が自害してから、頼政も人が変わってしまった。何かに取り憑かれたように、消えた翡翠の亡骸を探し続けている。
誰もがみな
今更見付けても仕方ないだろうに──
三郎太は、鬼に魅せられた人間の末路を見た気がした。
近くには聡明で美しく、こんなにも頼政を愛し、支えようと健気に寄り添う晶を無下にして、未だに翡翠の亡霊を探し求めている。
友頼が地位を脅かさないと知っていても、何度も刺客を送るのは、翡翠に愛され求められた友頼が憎いのだろうと·····。
執着とは·····なんと残酷で醜い感情なのだろう。
そして、そんな頼政を理解した上で、全てを受け入れている晶に三郎太は人の『愛』を見た。
自分の子供ではない頼久を慈しみ、無償の愛を与える晶。
三郎太には、彼女こそが女神に見えた。
馬鹿な男だ────
本音を言えば、晶の傍に居たかった。
しかし、自分に読み書きや算段を教え、こうして地方とはいえ、領主の家に仕える事が出来るように育ててくれたのは友頼と翡翠だった。
両親を亡くし、嘆き悲しむ自分を抱き留めてくれたのは、他でもない友頼だった。
そんな友頼を無視する事は、三郎太には出来なかった。
若様のために、俺は再びあの地へ戻る。
三郎太は意を決し、ゆっくりと晶の顔を見上げた。




