翠と三郎太
「なるほど……」
翠は小さく笑い、三郎太の顔を見た。
「……で、なんの用だ?」
冷たく言い放つ翠の顔を、三郎太は見つめた。
翡翠に似た面差しで、だけど血が通っているとは思えない程に冷たく美しい。
男なのか? 女なのか?
性別が分からない美しさが、人ならざる者だと肌で感じさせる。
「……若様は、お元気ですか?」
ポツリと呟くと、翠は冷めた視線を向けて
「友頼を裏切った奴に、答える義務はない」
とだけ答えた。
「裏切る? そんなわけ、ないじゃないか!」
思わず言葉を荒らげた三郎太は
「翡翠様が……頼久様をお守りしろと仰ったから、俺は頼久様をお守りしているんだ!」
と続けた。
「へぇ……」
「覚えて……ないんですか?」
戸惑う三郎太に、翠は冷めた視線のまま
「別人なんでね。俺の名前は翠、覚えなくても構わない」
と答えると、三郎太に背中を向けた。
「あの! 若様は……」
歩き出す翠の背中に叫ぶと
「知ってどうする? 頼政が送る刺客の数を増やすのか?」
と翠が皮肉に笑う。
「刺客? ……若様に?」
「知らないフリか? もう、何人殺したかな?」
ポツリと呟いた翠の言葉に、三郎太が目を見開いた。
「お前の主に伝えろ。
何人送って来ても、全部地獄に送ってやる」
翠の氷のような瞳に、三郎太は動けなくなってしまった。
翡翠が自害したあの日から、四年の月日が流れていた。
そして、翡翠によく似た翠という人物。
そして、頼政がまだ……友頼に刺客を送って命を狙っていたことに絶望した。
あんなに若様を苦しめて
まだ、命を狙うなんて────
三郎太は握りこぶしを握り締め、遠ざかる翠の背中を追おうとしたが
「三郎太!」
頼久の声に、三郎太の足を止めた。
「どこに行くのだ?」
晶に手を引かれ、頼久が悲しそうに三郎太の顔を見ている。
「ずっと、傍に居てくれるのではないのか?」
頼久の言葉に、三郎太はゆっくりと頼久の目線の高さにしゃがむ。
「頼久様、大切な方が……命を狙われているようなのです。助けに行かせてはもらえませんか?」
三郎太の言葉に、晶は息を飲んだ。
「友頼殿のことか? やはり……先程のは」
「いえ……。翡翠様とは別人で、翠様というそうです。性別も、男性でした」
三郎太はそう告げると、ゆっくり立ち上がり
「晶様、頼久様はもう……私が守らなくても大丈夫だと思います。だから、今度は若様を助けに行かせて下さい」
そう伝えた。
晶は目に涙を浮かべ
「どうしても……行くのですか?」
そう言って不安そうに三郎太を見つめている。
翡翠を亡くしてから、晶の気の強さは鳴りを潜めてしまった。
自分のせいで、翡翠を殺してしまったと……ずっと後悔していた。
毎晩、悪夢にうなされ、泣いている晶を支え続けた。
自分よりずっと年上なのに、何処か頼りない晶に、三郎太は恋をしていた。
身分も年齢もずっと上の晶に、持ってはならない想いだった。




