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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第四章
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悪夢~翡翠~

 翡翠は長い夢を見ていた。

フワフワと柔らかい雲に寝ているような気分で、翡翠は幸せな気持ちになった。

友頼と夫婦になり、幸せだった時間。

やがて赤ちゃんを授かり、幸せが絶頂だった日々。

どれもキラキラと輝いて、幸せだった。


『チリン…… チリン…… チリン……』


風鈴の音が聞こえて来る。

その音と共に、キラキラ輝いていた世界が暗闇に飲まれ始めた。


「翡翠様っ! 翡翠様っ! 大変です!

若様が……大怪我なさいました!」 

伊蔵の声に、辺り一帯が真っ黒に染まる。


『ダメ! 助けてはダメ!』

翡翠は必死に叫ぶ。

そう──あの……人の皮を被った、邪鬼よりも酷く残酷な男 頼政に会ってはダメだ。

必死に叫ぶ翡翠の声は、暗闇に飲まれて消えて行く。

すると景色が変わる。

頼政の怪我が治り、助けてくれた宮司を脅している光景が見えた。

 翡翠の居場所を言わなければ村人を一人ずつ殺すと脅し、目の前で実際に人を切りつけて行った。

 そして翡翠の居場所を聞き出すと、その宮司さえも切り付けて殺したのだ。

そして近くに居た、自分を探していた家来を伴い、善良な村人を斬り殺していったのだ。

火を放ち、逃げ惑う村人を次々に切り殺して行く。


 あの日、三郎太を膝に抱き、若様と算段を教えていた。

幼いながら、読み書きと算段を覚える三郎太の成長が嬉しくて、若様と二人で三郎太に勉強を教えていた。

そんな二人の屋敷に、民が命からがらやって来て

「若様! 翡翠様! 逃げて下さい!」

そう叫んだのだ。


「民、何があったの? とにかく、入りなさい」

玄関に駆け付けて言うと、民の口から血が吐き出され、胸元に刃物が突き刺さっていた。


「────!」


声にならない悲鳴を上げた翡翠の手を、刺し殺した民の身体を無下に引き抜いて打ち捨てた手で掴み上げた。


「見つけだぞ、天女様」


ニイッと笑った全身血まみれの姿が、どれだけの人を殺して来たのかを物語っていた。

翡翠は何よりも先に

「もし、若様や三郎太を殺したら、私も死にます」

真っ直ぐにその男を見つめて言い切った。

男に引きずられるように連れ出された時、みんなで作り上げた田畑は踏み荒らされ、村は静まり返り、火に包まれていた。

真っ赤な炎が、この後、自分たちに待ち受けている悲劇の始まりを告げるようだった。


いやだ……

もう、見たくない……


小さく身体を丸め、目を閉じた。

すると暗黒の渦が翡翠を飲み込んで行く。


「退け! 翡翠!」

「いいえ! 退きません。同じ女性として、母となる者として、あなたの発言は許せません!」


 そう、お腹に赤子を宿していた、頼政の正妻 晶様が出血をした日。

晶に冷たく当たる頼政の前に飛び出した翡翠を、頼政が強引に押し倒した。

その時、腹部に痛みが走った。

すると、みるみるうちに足元が温かい透明な液体が流れ出していく。

「破水されております!」

晶の乳母、きよが叫んだ。

「医者を!」

叫んだきよに

「必要ない。どうせ、産まれてもすぐに殺す」

顔色も変えず言われ、翡翠はお腹を抱えた。

「……ですが、今のままではお二人共に命はありませんよ!」

きよの言葉に、頼政は舌打ちをすると

「医者を呼べ! 翡翠を死なせたら、お前らの命も無いと思え!」

遠くなる声に、翡翠は必死に祈った。

(お願い! どうか無事に産まれて……)


「翡翠様、頑張って下さいませ!」

産婆が声を掛ける。



「オギャー オギャー!」


愛しい我が子の産声に安堵すると、隣から声が聞こえて来た。

「晶様のお子は、死産でした」

「……晶様はもう、お子様は望めないかと」

ぼんやりとした意識の中、ひそひそと話す声が聞こえて来た。

すると晶様の乳母、きよが翡翠に深々と頭を下げた。

「後生にございます。どうか、翡翠様のお子を晶様のお子にさせて下さいまし」

必死に訴えられた。

翡翠は目を閉じ

「……では、一つだけお願いがあります」

と呟いた。


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