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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第四章
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悲劇の幕開け

ドンっ ドンっ ドンっ!


太鼓の音に合わせるように、家紋の旗が上がり、廊下を右往左往走り回る動きに合わせ、屋敷中に甲冑のカシャン カシャンという音が響き渡る。


松明がたかれ、戦の前の静けさが広がっていた。


「殿! お待ち下さい、殿!」

静寂を切り裂いたのは、晶の声だった。

「これ以上、恨みを買うような真似はおやめください!」

家来に戦の支度を手伝わせ、戦に向かう身支度をしている頼政に駆け寄った。

コテを付けて床机から立ち上がった。

「殿!」

叫んだ晶に

「晶……これ以上しつこいようなら、お前を切る!」

ゆっくりと刀を抜き、切っ先を晶に向けた。

「殿、これは帝に抜刀した事になるのですよ!」

冷静に訴える晶に、頼政は小さく笑い

「鬼に殺された妻の敵討ちに出陣した……とでも言えば、充分、理屈は通るが?」

そう呟いた。


緊迫した空気が漂う。


睨み合う二人の耳に

「と~と! は~は!」

頼久の声が届いた。

三郎太に抱かれ、何も知らない頼久が睨み合う二人に手を伸ばしている。

「と~と!……は~は!」

いつもなら駆け付けて来れる二人が来ないので、頼久が目に涙を浮かべて両手で抱っこをせがんでいる。

頼政は刀を鞘に戻すと

「頼久に助けられたな」

と言うと、足早に三郎太から頼久を預かり抱き上げた。

「頼久、父はしばらく家を空ける。母上を頼むぞ」

そう言うと、頼久は

「あいっ!」

と手を上げた。

今から無慈悲に惨殺する人とは思えぬ優しい笑顔を浮かべ

「頼久は賢いな」

と頭を撫でた。


「三郎太、頼久を頼むぞ」

 生まれた頃から頼久に付き従う三郎太を、頼政はいつの間にか信頼しているようだった

しかし、三郎太が頼政を見る目には、憎しみが宿っている。

それでも三郎太に頼久を預けるのは、頼久が自分以外に母の晶に乳母だった翡翠。そして晶の乳母のきよと三郎太以外には人見知りを起こして泣いてしまうのだ。

翡翠のいない今、自分たち以外で頼久を任せられるのは、老体の"はつ"を抜かすと三郎太しかいなかった。

頼久を三郎太に返すと

「では、行ってくる」

そう言うと、馬副が鼻白毛の愛馬を引き、膝をついて手綱を差し出した。

頼政は無言でそれを受け取り、鞍に足を掛けると軽やかに跨った。

きっと鬼一族が住む場所は、結界で護られているはず。

翡翠を自害にまで追い詰めた頼政を、鬼一族は恨むだろう。


これ以上、頼政が罪を重ねぬように──


ただ祈ることしか出来ない自分が、情けなくて、悲しかった。

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