血の呪い
その日は突然、訪れた。
下半身の違和感に目を覚ますと、真っ赤な血で染まっていた。
「─────っ!」
声にならない叫びを上げると、屋敷の使用人達がバタバタと医者を呼びに走り回った。
不安だった。
そこに頼政が現れ、不安に震える晶を見下ろし
「無事に子供も産めぬのか!」
と罵倒した。
その瞬間、晶の目の前に女性の背中が立ち塞がった。
「あなたは……不安に震える女性にまで、そのような言葉を吐くのですか!」
その声は、鈴の音のように美しく凛としていた。
「退け! 翡翠!」
「いいえ! 退きません。同じ女性として、母となる者として、あなたの発言は許せません!」
翡翠の言葉に、晶は
あぁ……殿の"お気に入り"に庇われたのか
と、ぼんやり見ていた。
──彼女の声は、昨日聞こえた風鈴のようだ。
遠くなる意識の中で、晶はそう思った。
何やら周りが騒がしい。
……そうか。私は、この子と一緒に死ぬのだな。
ちょうどいい。
もう……生きることに、少し疲れた。
「晶、可愛い私の晶」
優しい母上の声が聞こえる。
私はこの屋敷に嫁ぐまで、何不自由なく幸せに暮らして来た。
両親や兄たちがくれる愛情は、当たり前だと思っていた。
もう……眠りたい。
もう……、誰かの悲しむ声を聞きたくない。
そう思ったその時だった。
「諦めるな!」
子供の声が聞こえた。
「生きることを、諦めるなんて許さない!」
それは、三郎太の声だった。
ゆっくりと重い瞼を開けると
「晶様、私が分かりますか?」
優しく語りかける頼政が見えた。
「……と……の?」
小さく呟くと、晶の手を強く握り締め
「死んではならぬ! 生きるのだ、晶!」
嫁いでから初めて、頼政が自分を心配してくれている。
頬を涙が伝う。
「心配……してくれる……の……です……か?」
「当たり前だろう! 私たちは夫婦ではないか!」
必死に訴える頼政に、晶は小さく微笑んだ。
遠くで……赤ちゃんの産声が聞こえる。
(あぁ……無事に産まれたのか……)
晶は安堵の息を吐いた。
「赤ちゃん……、私の……赤ちゃん……」
そう呟き、晶は意識を再び手放した。




