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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第四章
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血の呪い

 その日は突然、訪れた。

下半身の違和感に目を覚ますと、真っ赤な血で染まっていた。

「─────っ!」

声にならない叫びを上げると、屋敷の使用人達がバタバタと医者を呼びに走り回った。

不安だった。

そこに頼政が現れ、不安に震える晶を見下ろし

「無事に子供も産めぬのか!」

と罵倒した。

その瞬間、晶の目の前に女性の背中が立ち塞がった。

「あなたは……不安に震える女性にまで、そのような言葉を吐くのですか!」

その声は、鈴の音のように美しく凛としていた。

「退け! 翡翠!」

「いいえ! 退きません。同じ女性として、母となる者として、あなたの発言は許せません!」

翡翠の言葉に、晶は


あぁ……殿の"お気に入り"に庇われたのか


と、ぼんやり見ていた。


──彼女の声は、昨日聞こえた風鈴のようだ。


遠くなる意識の中で、晶はそう思った。


何やら周りが騒がしい。

……そうか。私は、この子と一緒に死ぬのだな。

ちょうどいい。

もう……生きることに、少し疲れた。

「晶、可愛い私の晶」

優しい母上の声が聞こえる。

私はこの屋敷に嫁ぐまで、何不自由なく幸せに暮らして来た。

両親や兄たちがくれる愛情は、当たり前だと思っていた。

もう……眠りたい。

もう……、誰かの悲しむ声を聞きたくない。



そう思ったその時だった。

「諦めるな!」

子供の声が聞こえた。

「生きることを、諦めるなんて許さない!」

それは、三郎太の声だった。

ゆっくりと重い瞼を開けると

「晶様、私が分かりますか?」

優しく語りかける頼政が見えた。

「……と……の?」

小さく呟くと、晶の手を強く握り締め

「死んではならぬ! 生きるのだ、晶!」

嫁いでから初めて、頼政が自分を心配してくれている。

頬を涙が伝う。

「心配……してくれる……の……です……か?」

「当たり前だろう! 私たちは夫婦ではないか!」

必死に訴える頼政に、晶は小さく微笑んだ。

遠くで……赤ちゃんの産声が聞こえる。


(あぁ……無事に産まれたのか……)


晶は安堵の息を吐いた。

「赤ちゃん……、私の……赤ちゃん……」

そう呟き、晶は意識を再び手放した。


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