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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第四章
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晶と三郎太との出会い②

「そなた、名前は?」

「三郎太……」


 晶自ら少年を風呂に入れ、使用人に殿が子供の頃に着ていた衣類を持って来させて、少年に着せた。

痩せこけた少年は、お風呂に入り身支度を整えて安心したのか、ようやく晶に口を開いた。

しかし、その瞳は晶たち屋敷の人間を恨んでいるようだった。

晶は三郎太と名乗った少年の目線の高さにしゃがみ

「家族は?」

と聞くと、少年はキッと睨み上げ

「……くせに」

聞き取れない声で呟いた。

「え?」

思わず聞き返した晶に

「おっとうもおっかあも……村も……、全部燃やしたくせに!」

憎しみを必死に飲み込んだように吐き出した言葉に、晶は自分の予想が当たってしまった事に絶望した。

「そうであったか……」

晶はそれ以上の言葉を言えなかった。

謝罪の言葉も慰めの言葉も、頼政の妻である自分には言う資格がないと分かっていたからだ。

晶はゆっくりと立ち上がり、三郎太を友頼の部屋へと案内した。

「友頼殿、入ります」

襖を開けると、布団から起きて、窓から見える空を空虚に見上げている姿が飛び込んで来た。

「友頼殿、あまり身体を起こさぬ方が良い。まだ、怪我は癒えておりませぬから」

と声を掛けると、ゆっくりと晶に視線を移した。

「ご心配、ありがとうございます」

ふわりと優しい笑みを浮かべ、頭を下げる友頼に晶の胸が切なくなる。


いつからだろう。

殿によく似た面差しのこの人に、殿から得られなかった優しい眼差しや笑顔を向けられる度


何故、この人ではなかったのだろう?


と考えてしまう。

木漏れ日のように優しく、温かいこの人物は、会話をしても教養があり、品さえも持っていた。

いつしか看病の為に身体を拭く度、この腕に抱かれてみたいとさえ願ってしまう自分の浅ましさに何度抗っただろうか──。

そのたびに思い出すのは、頼政の冷たい眼差しだった。

愛を……優しさを……求めることを諦めなければ、

この屋敷で生きて行く事は出来なかった。


けれど、彼の微笑みに触れるたび──その掟が音を立てて崩れていくのを、晶は感じていた。



 頼政との閨は、儀礼的だった。

一方的に抱かれて終わる。

それは晶にとって、屈辱的な行為だった。


 あの日、わざと晶に見せつけるように、強引に翡翠に口付けしたような、情熱的な口付けはされた事がなかった。

……むしろ、口付けなどされた事などなかったことに、あの日、気付かされた。

一方的に身体を開かれ、一方的に終わる。

晶にとって、世継ぎを残す為の苦痛な行為でしかなった。

そんな晶が、異性に……ましてや似ていても頼政ではない相手にそのような願望を抱いてしまう自分が恥ずかしかった。


 友頼という人間は、何故かそう思わせてしまう魅惑的な魅力を持っていた。


他の使用人に任せたこともあったが、動けぬ友頼と不埒な行為に及ぼうとしてしまう為、結局、晶が面倒を見るしかなかった。

しかし、自分の理性もどこまでもつのか不安でもあった晶は、三郎太に任せようと連れて来たのだ。


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