養父──豪鬼との別れ
豪鬼は深い溜め息を一つ落とすと、ゆっくりと翡翠の顔を見つめると
「これから人として暮らすお前たちに、肝に命じて欲しいのは、人間は私利私欲の為に平気で裏切り命を奪うということだ」
そう呟いた。
豪鬼の言葉に翡翠が首を傾げると
「言っておくが、友頼は人間だが特殊だ。
友頼の母が、友頼に命の大切さを問うていた。
そして何より、我々と暮らして来たのだ。
友頼は人間でも、我らに近い存在なのだ」
そう続けた言葉に、翡翠は頷いた。
「友頼、お前は母の願いでもあったが、鬼ヶ村で暮らした為に、人間なのに純粋過ぎる。
それは素晴らしいところでもあるが、人間相手には苦労するかもしれぬ。
良いか。身内でも、人間を信じてはならぬ。
たがこの先、災いが来て対処できない事があるだろう。良いか、二人とも。村を出ても友頼は俺の息子だし、翡翠は俺が守るべき鬼ヶ村の子供だった。それに、今では息子の嫁だ。どうにもならなくなった時は、遠慮せずに頼りなさい」
豪鬼は二人を真っ直ぐに見据え、そう言い切った。
「……父上。私の父上は、あなた一人です」
涙を浮かべ呟いた友頼に、豪鬼は優しく微笑むと
「達者で暮らせよ」
そう言い残し、村へと帰って行った。
二人が見送る中、豪鬼は帰り道を歩く足をふと止めると
「翡翠……、人間の世で生きると決めたなら、何があっても人を恨んだり、憎んだりするなよ」
と呟いた。
「え?」
「俺たちは、人を殺めてはいけないんだ。それだけは忘れるな」
それは言い聞かせる……というよりは、誓約に近い言葉だった。
翡翠は胸に広がる不安を押し殺すように、ギュッと両手を胸の前で合わせると
「分かりました」
と、短く答えた。
友頼にそっと抱き寄せられ、優しくも頼もしい豪鬼の背中が、村の結界の中へと消えて行くのを見守っていた──。
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