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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第四章
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故郷との別れ

『ドンドンドン! ドンドンドン!』

 ドアを激しく叩く音に、二人は目を覚ました。

慌てて身支度を整える友頼は、翡翠の額に唇を落とすと

「まだ寝ていて大丈夫です。

私が対応します」

手際よく衣類を身に付け、友頼が部屋を後にした。

翡翠は自分の両手を伸ばし、真珠のように白い肌に視線を落とす。

身の内に残る違和感に、昨夜の出来事が夢ではなかったと噛み締めていた。

──その時だった。


スパーンと音を立て、部屋の襖が開かれた。

慌てて寝具で身体を隠すと、目の前に現れた豪鬼が手を目に当てて天を仰いだ。

「なんということを──」

豪鬼の声は、怒りとも悲しみとも取れる響きを含み、震えていた。

いつもなら、必ず友頼が止めてくれるはず。

翡翠は、友頼がいない事に気がついた。

「友頼に……何をした?」

ユラリと翡翠の瞳が翠色に変わる。

「私から友頼を奪うことは、何人たりとも許さない!」

翡翠の長い髪がふわりと舞い上がる。

その瞬間、翠の瞳が眩く輝き、金色の光が部屋を満たした。

すると豪鬼は息を詰まらせ、膝をつく。

(息が……できない……)

苦しさにもがく豪鬼を、翡翠は真っ直ぐ見つめている。

「私から友頼を奪うなら、あの村を焼き尽くしてやる!」

翡翠の言葉が、水面に石を投げ入れた時に起こる波紋のように広がり──やがて静かに時を止めた。

翡翠の髪がふわりと広がり、金の光を纏って揺らめいた、その刹那──

「翡翠! 止めろ!」

友頼の声が聞こえた。


すると豪鬼や、友頼を捕らえていた村人の呼吸が戻る。

ゲホゲホと咳き込む声が聞こえる中、友頼はそっと翡翠に近付いた。

友頼の頬には、殴られたような跡が……。

「友頼、これは……」

慌てて頬に触れようとする翡翠の手を、友頼がそっと制した。

「翡翠、大丈夫だ」

優しく微笑む友頼に、翡翠の胸には不安が渦巻いた。

(また……私を置いて、消えてしまうのではないか……)

翡翠の声は、幼い頃に泣きながら名を呼んだあの日のままだった。

「友頼……どこにも行かないで!」

翡翠は豪鬼が居るのも忘れて、友頼に縋り着いた。

翡翠の姿を見て、豪鬼は全てを悟った。


あの日、友頼の母を愛してしまい、親子を匿った時点でこうなる運命だったのだと……

そして、初と我が子を置き去りにし、愛する彼女を看取った自分に与えられた罰なのだと──


友頼は両手を床に着け、頭を垂れた。

「父上、いかように責めを受ける覚悟は出来ております」

 翡翠を背に庇い、真っ直ぐに自分を見つめる友頼の姿に、あの日、親子を助ける為に村人に頭を下げた自分の姿に重なって見えた。

しかも、その息子は今、自分を「父上」と呼んでいる。

血の繋がりは無いが、赤子の頃から共に暮らした友頼は、どこか自分によく似ていると思った。


(逃れられぬ運命なのか……)


かんぬきで外から鍵をかけた部屋から翡翠が消えた時から、もう、誰も翡翠を止められない。

しかも、性別が女性となり、既に夫婦の契りを交わしてしまったとなれば……翡翠の命は友頼が握っている。

せめて逆ならば、こんなにも反対はしなかった。

翡翠が男で、友頼が女ならば──


豪鬼は頭を抱え、今更どうにもならない「たられば」を考えている自分に苦笑いを浮かべた。

しかし、その胸の奥では──言葉にならぬ何かが、静かに崩れ落ちて行くのを感じた。

そして──

豪鬼はゆっくりと二人を真っ直ぐに見据え

「結婚は認めてやる」

と呟いた。

すると二人は見つめ合い、笑顔を浮かべた。

だが、その笑顔を見つめる豪鬼の胸の奥には、

言葉にできぬ不安が、静かに渦を巻いていた──

読んで下さり、ありがとうございます。

次回更新は20時30分頃になります。

又、読んで下さると嬉しいです。

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