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別離②
「友頼──!」
真実を養父から聞かされ、友頼はひっそりと生家へ帰る支度をしていた。
神出鬼没な幼馴染みは、そんな友頼の部屋に突然現れた。
慌てて身支度していた荷物を隠しながら、友頼は苦笑する。
「翡翠。お前、玄関から入れと何度言えば分かるのだ?」
「……何かあったのか?」
人の機微に敏い幼馴染みは、心配そうに友頼の顔を覗き込んだ。
「いや、別に……。
それよりも、久しぶりに笛を吹こうと思っているのだが」
「本当か! 聞きたい!
友頼の笛の音は、天下一じゃ!」
嬉しそうに笑う翡翠の笑顔に、友頼の胸が鈍く痛んだ。
──別れに吹くこの笛は、きみの幸せを願って奏でよう。
友頼は自らの悲しみを胸の奥に押し込み、ただ翡翠の幸せを願って笛を手に取った。
愛しいきみの幸せを願い、
私はこの村を去るよ──
その音色は、聴く者すべての心を震わせた。
美しく、優しく、どこか胸を切なくさせる旋律。
鬼ヶ村に静かに降り始めた霧雨のように、
その笛の音は、ゆっくりと夜の帳へ溶けていった。




