幸太の思い
「あ! 居た居た!」
女性が走り去った方向を見つめていると、幸太が走り寄ってきた。
そしてぼんやりとしている冬夜の顔を見て
「何かありました?」
と、眉間に皺を寄せて訊ねる。
「あ……今、翠と翡翠に会った。多分、だけど」
「多分って、なんですか?」
「あ、嫌。どちらにも、確認しなかったから……」
夢うつつという感じで話す冬夜に、幸太は溜め息をついて
「まぁ……十中八九、そうでしょうね」
と言うと、冬夜の両頬を『バチン』っという痛そうな音を立てて両手で挟む。
「しっかりして下さい。
全ての鍵は、冬夜さんが握ってるんですから!」
そう言い聞かせる幸太に、冬夜は苦笑いを返す。
ここに来てから、幸太がずいぶん逞しくなった気がする。
「そうだな。ここで俺までのまれたら、元の世界に帰れなくなるんだよな」
まるで自分に言い聞かせるように呟く冬夜に、幸太は怒った顔をして
「それもそうですけど……冬夜さん、僕達が付いてるって事、忘れないで下さいね」
と、真っ直ぐに冬夜を見つめて呟いた。
冬夜は驚いた顔をしてから、今にも泣きそうな泣き笑いを浮かべたのを見て、幸太は冬夜が誰にも言わずに抱えていた孤独を見たように感じた。
おそらく彼が生きていた中で、誰かにそう言われたのはそんなに数多くなかったのだろう。
そう、幸太は感じていた。
一方、常に孤独と共に生きていたような気がしていた冬夜は、幸太の言葉が素直に嬉しかった。
「ありがとう」
微笑んでそう言った冬夜に、今度は幸太が驚いた顔をすると、真っ赤になって
「素直な冬夜さんは……気持ちが悪いです」
と、わざと悪態をついた。
「ひどい言い草だな〜」
冬夜は幸太に笑ってそう言うと、陽の光に照らされて、湖面がキラキラと輝いているようすを見つめていた。
その横顔は穏やかで優しい。
幸太は、冬夜がここに来てから虚勢を張らなくて良い状況だと気が付いたのか、穏やかに笑うようにもなっていた事に気付いていた。
こんな穏やかな顔の冬夜を見てしまうと、冬夜だけここに残して、自分達だけ帰った方が良いのかもしれないと思ってしまう。
でも……冬夜がここに残ったら、残された道はただ一つ。
鬼に喰い殺されてしまうという事実が悲しかった。
(どうにかして、二人を守らなくちゃ!)
幸太は冬夜の横顔を見つめて、そう心に誓っていた。




