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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第三章
32/59

翠の呪い

 朝、幸太は目覚めて台所へと向かう。

お水を口に含んで、台所の木戸を開けると、明るい陽射しが差し込み、思い切り吸い込んだ澄んだ空気が美味しい。

思い切り伸びをした幸太の背後に、突然、冬夜が現れた。

「うわ~! と……冬夜さん! 何してるんですか! 黙って後ろに立たれたら怖いじゃないですか!」

「あぁ、すまん。あんまり寝てなくてな……」

驚く幸太に、冬夜が眠そうにあくびをする。

その様子に眉間にしわを寄せて

「何かあったんですか?」

と、幸太が心配顔をした。

「遥が……」

ぽつりと冬夜が呟くと、幸太の顔色が変わる。

「何かあったんですか?」

幸太の言葉に冬夜は話し辛そうな顔をすると

「頭の中で声がすると言って……昨夜、かなり取り乱していた」

そう呟いた。

「それで! 大丈夫だったんですか?」

冬夜に掴み掛かって叫んだ幸太に

「あぁ……、ちゃんと寝かしつけたよ。

多分、翠の力が及んでいるんだと思う。

だから、あいつを守ってやってくれ」

そう言って頭を下げた。

「……頭を上げて下さい。

冬夜さんに言われなくても、遥先輩は僕が守ります」

幸太は真っ直ぐに冬夜を見つめて言い切った。

「それで……遥先輩は?」

「まだ寝てると思う」

「そうですか……」

幸太は答えながら、なにかを考え込んでいる。

「多分ですけど……ここに来てから、心の中にある不安や恐怖心、嫉妬心とか……そういう黒い感情が増長しやすくなっているように思うんです」

ぽつりと幸太が呟く。

「え?」

冬夜が幸太の言葉に驚いた顔をすると

「僕にそういう感情が無いとでも思いましたか?

僕にだって、冬夜さんに嫉妬する気持ちはあるんですよ」

そう言って小さく笑う。

「どんなに思っても、遥先輩は冬夜さんしか見ていない。それがどれだけ僕にとって辛いか、考えたことありますか?」

幸太の目が暗く沈んで行く。

「幸太?」

冬夜が幸太を呼んでも、幸太に声が届いていないようだった。

「僕はどこまで行っても、弟なんですよ。

冬夜さんさえ居なければ……」

幸太の手が冬夜の首にかかる。

冬夜が無抵抗で目を閉じると、突然、幸太が膝から崩れ落ちた。

「幸太!」

慌てて腕を掴むと

「なんで無抵抗なんですか! 抵抗して下さいよ」

苦しそうに幸太が顔を上げて呟く。

「いや、お前なら絶対に戻ると思ってたから」

冬夜が苦笑いして答えると

「なんですか、それ」

そう言いながら幸太は笑うと

「僕でさえ、感情が揺さぶられます。

遥先輩には、かなりキツイと思います。」

と言って立ち上がる。

「どういう意味だ?」

幸太の言葉に冬夜が聞くと

「遥先輩は……藤原頼久の奥様だった(あき)様の生まれ変わりなんです」

そう答えた。

「頼政に愛されず、孤独を抱えて苦しんでいた方なんです。だから、その感情と自分の感情──それを揺さぶる翠の声が聞こえているんだと思うんです」

幸太はそう言って冬夜に微笑んだ。

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