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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第三章
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悲しい過去③

 三人は食事を終え、後片付けを終えて早めに就寝した。

屋敷内には、囲炉裏のあった部屋と食事を取った部屋の他に、四つほど部屋があった。

それぞれが適当に、部屋を決めて寝室で横になる。

冬夜と幸太に関しては、直ぐに自分の部屋だったのが分かったのか、何の問題もなくそれぞれの部屋に消えて行った。

遥だけ残りの2部屋を見て、明らかに客間っぽい部屋を選んで横になった。

(自分もこの世界に呼ばれたものの、本当に2人に関わっていたのだろうか?)

そうぼんやり考えていた。

村長も、冬夜と幸太の話は出していたが、遥の事は知らないようだった。

でも…この世界の文字が読め、夢で幸太に良く似た人物も見ている。

だけど……今いるこの世界には、自分の存在を感じることがない。

もしかしたら、二人の話を聞いていて、自分もそうだったんじゃないかと勘違いしていたんじゃないだろうか?

遥の中で、ジワジワと不安が広がって行く。

何度も寝返りをうち、溜め息を吐く。

「ダメだ……眠れない……」

布団から起き、台所に行って水を口に含む。

水道はなく、飲料水と食器を洗う用に分けて水が貯めてある。

窓はなく、締め切られた木戸に息が詰まりそうだった。

溜め息をもう一つ吐くと

「遥?」

と、背後から声が聞こえた。

振り向くと、手に幸太から渡されたLEDの懐中電灯を持った冬夜が立っていた。

浴衣姿の冬夜に一瞬目を奪われたものの、自分が肌襦袢姿だったのを思い出して慌ててしまう。

すると上に着ていた羽織を遥の肩に掛け

「お前も眠れないのか?」

と、冬夜が呟いた。

遥はその言葉に、一番不安なのは冬夜なんだと思い出す。

台所の土間に続く入口に並んで座ると

「幸太は?」

遥が聞くと、冬夜は思い出したように吹き出して笑った。

「爆睡してたぞ。あいつ、絶対に大物になるな」

「冬夜……、私は本当にこの時代に生きていたのだろうか?」

隣で思い出し笑いしている冬夜に、遥がポツリと呟いた。

すると冬夜は遥の顔を見て、頭をくしゃくしゃっと撫でると

「そんなの、どうでも良いんじゃねぇのか?

この世界に三人で呼ばれた。それは事情なんだからさ……」

と言って微笑んだ。

遥はその時、胸がぎゅっと苦しくなる。

「お前も疲れてるんだよ。眠れなくても良いから、横になるだけでもしていた方が良いぞ。俺も、水を飲んだら戻るから」

遥の気持ちを知らないみたいに接する冬夜を、嬉しくもあり切なく感じる。

土間の履物を履き、冬夜が水を飲む姿を遥はぼんやり見つめていた。

LEDの懐中電灯が照らす灯りの中で、遥は溜め息を吐く。

冬夜の温もりが残る羽織に手で触れた瞬間

『今だよ。ほら、二人なんだから誘惑してしまえば、冬夜はお前のものになる』

頭の中で声が聞こえる。

(止めろ!)

遥が必死に否定しても

『良いの? 早くしないと、また、翡翠に奪われてしまうよ』

頭の声が遥に囁く。

その瞬間、遥は昼間に会った美しい女性を思い出す。

「止めろ!」

思わず叫んだ遥に、冬夜が驚いたように振り返る。

「遥、どうした?」

慌てて近付く冬夜に遥は抱き着くと

「頭の中で声がするんだ。私は……おかしくなってしまったのかもしれない」

そう呟いて、冬夜の背中を握りしめた。

「遥……」

悲しそうな冬夜の声に、遥は腕を引き剥がされる覚悟をしていた。

すると冬夜は遥の背中をゆっくり抱き締めて

「巻き込んでごめんな……」

と呟いた。

慌てて顔を上げると、冬夜は悲しそうに瞳を揺らしながら

「お前達を、必ず元の世界に戻すから……。

だから安心しろ」

そう呟いた。

そして遥を抱き上げると

「眠るまで傍に居てやる。だから、もう何も考えるな」

と言って、寝室へと運んだ。

冬夜は遥を布団に寝かせると、そっと抱き寄せて背中をトントンと叩いていた。

遥は最初こそ緊張していたが、冬夜の自分を労るように背中をトントンと叩く音に誘われるように、深い眠りに落ちて行った。

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