悲しい過去②
「随分楽しそうなお話をなさっていらっしゃいますね」
幸太達が話に夢中になっていると、声を掛けられた。
驚いて声の方へ視線を向けると、品の良さそうな老人が立っていた。
三人が慌てて立ち上がろうとすると、
「あぁ、そのままで。私はこの村の村長です」
と穏やかに告げ、囲炉裏のそばに腰を下ろした。
四人で囲炉裏を囲むと、村長は静かに湯を注ぎ、お茶を差し出した。
「おそらく気付いていらっしゃるかと思いますが、ここはあなた方がいらっしゃった世界とは違います」
そう言って三人の顔をゆっくり見渡す。
「ここは千年前、鬼の力によって時が止められております」
村長の言葉に、三人は息を呑んだ。
「それに気付いているのは私だけでございます。ですから、若様──友頼様に生写しの貴方様を、村人は友頼様が戻られたと勘違いしておるのです」
困惑する冬夜に、幸太が問いかける。
「あの……冬夜さんはそんなに似ていらっしゃるのですか?」
「冬夜様とおっしゃるのですか?」
村長は冬夜を見つめ、静かに微笑んだ。
「冬夜様だけではございません。あなた様も、友頼様に仕えていた三郎太の生写しでございます」
幸太と冬夜が顔を見合わせる。
「……それで、千年前から時が止まっているというのは?」
遥が問いかけると、村長は悲しげに微笑んだ。
「あの忌まわしい事件の時、若様の生き血を吸った翠が力を得て、この村だけを時空の狭間へと封印してしまったのです。
村人は皆、老人と化し、同じ時間をずっと繰り返しているのでございます」
「同じ時間……?」
遥が呟く。
「ええ。毎日、毎日、同じ時間が繰り返されます。
唯一違うとすれば、友頼様の魂を持った青年が生まれ変わり、成長してこの村へ現れることだけでしょう」
「そして──千年目の今。
もし冬夜様が再び翠に生き血を吸われたその時は……」
村長は冬夜をまっすぐに見つめた。
「翠は完全な悪鬼となり、世界が破滅してしまいます」
「世界が……破滅?」
幸太が思わず声を漏らす。
村長は正座し直し、三人に深く頭を下げた。
「どうか、この村を……いえ、世界をお救い下さい」
土下座する村長に三人が慌てて立ち上がる。
一番近くにいた幸太がその手を取り、顔を上げさせた。
「あの……世界を救うとか、そういうのはよく分かりませんけど」
幸太は真っすぐに言った。
「僕らも、易々と冬夜さんを渡すつもりはありませんから」
そう幸太は言い切った。




