悲しい過去
冬夜は意を決して、遥達に自分の生い立ちから、大切な人が亡くなってしまう話まで、すべてを話した。
その間、幸太と遥は黙ったまま、ただ冬夜の言葉に耳を傾けていた。
「僕も……冬夜さんの意見と同じ見解です。
おそらく翠にとって、冬夜さんは“孤独でなければならなかった”んだと思います」
「ここからは……僕が話して大丈夫ですか?」
幸太が二人に視線を向けて確認すると、静かに話し出した。
「まず、僕達三人は前世で何らかの関係があり、ここに呼び込まれた。
でも、翠が此処へ呼び込んだのは、冬夜さん一人のはずなんです」
「え? じゃあ私達は?」
遥が驚いて声を上げる。
「──招かれざる客ですね」
「でも……招待状は三通きていたよな?」
「ええ。おそらく僕達に届いた招待状は偽物。もしくは、翠に近しい能力を持つ存在が出したんだと思います」
「翠に近しい能力って……他にも鬼がいるのか?」
「……翠というのは、元々実体のない存在なんです」
「昔、日本には鬼の血を引く一族がいました。しかしその一族は、千年前──藤原家の分家で麓の村を治めていた藤原頼政によって根絶やしにされたんです」
「根絶やし……!?」
「はい。ただし唯一、翠だけは殺せなかった。何故なら、彼はすでに鬼になっていたからです」
「実は……僕の頭には、おそらく三郎太だった頃の記憶が蘇っています。
ただ、その三郎太本人は、僕の魂の中で自らの存在を消しているようなんです。
だから前世の記憶を断片的に知ることはできても、僕にはこの世界の文字が読めないみたいなんです」
幸太はそう言って静かに目を開いた。
「僕と遥先輩がここへ来たのは、千年前の“呪われた運命の針”を止めるためなんだと思うんです」
「運命の針を止めるって……どうやって?」
「きっと、この屋敷の中にヒントがあるはずです。──例えば、この日記のように」
「それで……僕には文字が読めません。
だから、遥先輩は千年前のことが書かれた書物を探して下さい」
幸太の言葉に、遥は小さく頷いた。
「分かった……」
「冬夜さんは……」
「一人でフラフラするな、だろう?」
冬夜が鬱陶しそうに言うと、幸太は首を振った。
「いえ。翡翠を探し出して下さい」
「翡翠って……死んだんだろ? 巫女だったんだよな?」
「それはおそらく、藤原頼政の関係者が書かせた偽の情報です」
「気を失っている間に見えた記憶ですが……翡翠と翠はコインの裏と表。一つの身体に二つの存在が混在しています。
翡翠は“鬼神”、翠は“悪鬼”なんです」
「ということは……私達を呼んだのは」
「ええ。おそらく“翡翠”でしょう」
幸太は遥の問いに頷いた。




