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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第三章
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冬夜の生い立ち

冬夜の記憶は、遡る事3歳から始まる。

『杉の子園』という養護施設で育ち、杉野園長先生夫婦には可愛がられて育つ。

園内の子供は多くなかったが、不満を抱いたことは一度もない。

むしろ、どの子にも一心に愛情を注ぐ園長夫妻が大好きだった。

一緒に暮らしていた子達も、本当の兄弟のように過ごしていて、自分の家のように思って過ごしていたのだ。

だから、冬夜はずっと義務教育を終えたら働くつもりだった。

園長は隠し事はしない人で、冬夜が杉の子園へ来た話を物心着いた頃から聞かされていた。


寒い雪の降る冬の夜。

湖で生後間もない赤ちゃんが発見された。

周りには人がおらず、偶然、犬の散歩をしていた人が発見したらしい。


捨てられたのか?

事件、事故に巻き込まれたのか?


全く分からず、警察から預かったのが冬夜だったと話していた。

 名前は寒い冬の夜に来たので、園長先生が「冬夜」と名付けたらしい。

そんな冬夜が10歳になった時だった。

冬夜が小学校に行っている間に、杉の子園が不審火により火災に遭ってしまう。

園長先生と奥様は、小さな子供を助ける為に命を落としてしまったのだ。

葬儀の時、冬夜は涙が出なかった。

夢の中の出来事のようで、感情が死んでしまったようで……ただ、茫然と葬儀を見送った。

杉の子園は跡形も無く燃えてしまい、園は閉鎖される事になる。


 杉の子園の助かった子供達はみんな、それぞれバラバラの養護施設へと預けられる事になった。

冬夜は知る人のいない養護施設へ預けられ、元々、人との交流が苦手だった事からいじめに遭ってしまう。

 冬夜の食事は他の大きい学年の人達に食べられてしまい、衣類も冬夜にだけ寄付された洋服がもらえなかったりもした。

いつも同じ服を着て、お腹を空かせていたのだが、顔立ちが綺麗だったので女子から給食の残りのパンをもらったり、手作りのお菓子をもらったりしていたので、尚更、新しい養護施設の人達からの虐めが酷くなっていた。


 そんな時、施設の中学生男子数人に、冬夜が暴行を受けそうになった事があった。

すると、冬夜を傷付けようとした相手の手や足が突然折れるという現象が起こった。

その時、全員が冬夜の後ろに幽霊がいたと口々に叫んだのだ。

それ以来、施設の人から気味悪るがられてしまい、口をきいてもらえなくなってしまった。

施設では存在を無視され、お風呂にも入らせてもらえず、いつも冷たい水で身体を洗い、部屋に入れてもらえないので物置小屋で過ごす毎日だった。

冬夜は段々人と会話もしなくなり、心を閉ざして過ごすようになった。

そんな頃、冬夜は杉の子園以来に自分の親のように慕う人物に出会う。

この日も中学生に虐められ、物置小屋に鍵を掛けられて中に入れなくさせられてしまう。

施設をそっと抜け出して公園のベンチで寝ようとしていると

「坊主、どうした?」

と、知らない人に声を掛けられた。

首にはカメラを掛けて、人懐っこい笑顔で冬夜に近付いて来る。

誰も信じられなくなっていた冬夜が訝しんで見ると

「そんな警戒しなくても、取って食ったりなんかしないよ」

そう言って笑顔を浮かべた。

でも、冬夜はこの時、いっそ拐われて殺された方が楽になるのかもしれないと思った。

しかしその人は優しく微笑むと

「お前、いっつも此処にいるな」

そう言うと、優しく冬夜の頭を撫でてくれたのだ。

それは、杉の子園以来の優しい手だった。

「坊主、うちに来ないか?」

冬夜を抱き上げそう言うと

「お前、軽いな!……こんなに痩せて」

驚いたように言って、冬夜を肩車した。

連れて行かれたアパートは古く、決して裕福な感じでは無かったが、冬夜をお風呂に入れてくれて、ご飯をお腹いっぱい食べさせてくれた。

そして施設へ冬夜を連れて行くと、養子縁組の手続きをしてくれたのだ。

「どうして?」

冬夜が聞くと

「俺の名前は杉野彰人。分かるか?

杉の子園は、俺の兄貴がやっていたんだ」

そう言って冬夜の頭を優しく撫でた。

「杉の子園が焼けて、兄貴達が死んだと聞いてな。杉の子園の子供達を探して歩いたんだ。最後の一人。冬夜、お前を見付けるのが遅くなった。辛い思いをさせて悪かったな」

彰人の言葉に、冬夜はずっと我慢していたモノが堰を切ったかのように泣いた。


杉の子園が無くなったこと

園長先生夫妻が亡くなったこと

そして、大好きだった杉の子園のみんなと離れて暮らすこと



全部、全部悲しかった



どんなに虐められても、もう心が死んだみたいになって感じなくなっていた。

そっと自分を抱き締めてくれた腕は温かくて、帰る場所が出来た事を感じた。

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