捕獲完了!
屋敷に戻ると、遥が何かを読んで待っていた。
「遥先輩、冬夜さんを捕獲して来ました」
幸太がそう叫ぶと
「捕獲って……」
冬夜が呆れた声を出す。
遥は顔を上げて
「お疲れ様」
そう言って小さく微笑む。
「おい、捕獲の突っ込みは!」
「はぁ? すぐフラフラする奴は、捕獲で充分だ。
少しは幸太の迷惑も考えろ」
幸太の言葉にクレームを言う冬夜に、遥が呆れたように答える。
「何を読んでいたんですか?」
幸太が遥に近づくと
「あぁ…、屋敷内を回っていて、日記を見つけたんだ」
遥はそう言って古びた書物を幸太に渡す。
「日記?」
書物を開きながら、幸太は遥が読んでいた本に視線を落とした。
「……遥先輩。これ、読めるんですか?」
驚いた顔をする幸太に、遥が
「? 何言ってるんだ?
幸太だって読めるだろう?」
と、怪訝な顔をした。
幸太は首を横に振って
「僕には……古文書にしか見えません」
と答えたのだ。
「え?」
驚く遥に、冬夜が幸太の手にある書物に目を落とした。
「……」
黙っている冬夜に、幸太は二人を見て
「お二人には読めるんですね?」
そう静かに呟いた。
「……僕の見解を話しても良いですか?」
幸太はそう言うと、書物を手にしたまま居間にある囲炉裏の前へと歩き出す。
冬夜と遥は顔を見合わせ、三人は囲炉裏を囲んで座った。
囲炉裏には炭が置かれ、ヤカンから湯気が上がっていた。
幸太は少し考え込むと、重い口を開き
「これはあくまでも僕の予想ですが……」
と切り出して
「恐らく、僕達三人は前世で何らかの関わりがあったんだと思います」
そう呟いた。
「前世?」
戸惑うように呟く遥に
「まず、この村で最初に出会った老人は、僕の事を『三郎太』と呼び、冬夜さんを『若様』と呼んでいました。これも僕の予想ですが、今まで神隠しに遭って変死体で見つかった共通点のない遺体の共通点は、冬夜さんと同じ、前世が『若様』であったんだと思います」
そう話すと、書物に視線を落とす。
「……とはいえ、ここまではお二人も何となく予想をしていたと思います。恐らく、冬夜さんは『若様』の生まれ変わりで、鬼にとって冬夜さんの生き血が必要なんだと思うんです」
「生き血……」
幸太の言葉に、遥がポツリと呟く。
「ええ……。それは冬夜さんも、もう気付いていますよね?」
ゆっくりと幸太が視線を向けると、冬夜が静かに頷いた。
「え! 冬夜、お前……それを分かっていて、ここに来たのか?」
思わず声を荒げた遥に
「抗えないと……思ったんだ」
冬夜がポツリと呟いた。
「あの写真が届いた日から、毎日、夢を見た。
それは……俺が俺でない時の記憶なんだと思う」
遠い目をした冬夜はぽつり言うと
「中には必死に抗った奴も居て……。
でも、抗えば抗うほど……関わった人間が不幸な死に方をするんだ。
そう……まるで、今まで俺に関わって死んだ人達のように……」
そう続けた。
「え?」
遥が驚いて声を上げると
「俺は赤ん坊の時、湖で発見されて養護施設で育った。俺の苗字の『日下部』は、当時の養護施設の施設長の奥様の旧姓だ」
冬夜はそう呟くと
「幸太の話の前に、少し俺の出生の話をしても大丈夫か?」
と、二人に視線を向けて確認をした。
遥と幸太は、戸惑いながらゆっくりと頷く。
普段、決して自分の話をしたがらない冬夜の言葉に、遥は震える手を必死に押さえた。
胸に湧き上がる不安と、この後、自分達が向き合わなくてはならない試練の大きさ。
そして、冬夜がどこか人を拒絶し続ける意味が分かるのかもしれない。
分かった後、遥は冬夜に以前と同じように接する事が出来るのかが不安だった。
あの日──初めて冬夜が軽く唇に触れた日に見せた、悲しそうな瞳の意味をずっと知りたいと思っていた。
でも、それと同時に、冬夜の中へと踏み込んでしまっても…同じ気持ちで居られるのかが不安だった。
もっと魅かれてしまうのか
逆に……引いてしまうのか
どちらの感情も、冬夜に対して失礼だと思った。
冬夜が一人で抱え、苦しんで来た重さが重ければ重いほど、自分はもっと冬夜に対して執着してしまうような気さえしてしまっていた。
『私だけが冬夜の苦しみを知っている』
そんな……浅ましい感情を抱いてしまうのではないか?
でも、そんな醜い自分とも向き合っていかなくてはならないのかもしれない。
遥はそう思って、両手をギュッと握り締めた。
きっと……ここへ呼ばれたのも、断ち切らなければならない“何か”が、自分にもあるのだと──
遥は静かに感じていた。




