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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第三章
23/120

前世の記憶

 幸太や遥の気持ちを他所に、冬夜は村を散策していた。

電信柱1つ無い風景に、冬夜は村を歩きながら、つい、カメラを入れている鞄を探してしまう。

その度、カメラが無いのに気付いて舌打ちをした。

人工的な物が民家しかない村は、空がどこまでも青くて広い。

 整備されていない道がどこまでも続き、田畑が広がるのどかな風景に目を閉じると、風が頬を撫で、木々が揺れる音が聞こえる。


 深呼吸をすると土の香りが鼻腔を掠め、人工的な音のない世界。

「あ、若様!」

村人とすれ違うたびに、彼らが一斉にひれ伏すので、冬夜はうんざりと溜め息を吐いた。

「あの! それ、止めてもらえませんか?」

慌てて声を掛けても

「とんでもございません」

と、益々頭を下げられてしまう。

「ったく……やりづらい」

冬夜は毒づきながら湖へと歩を進めた。


 湖は村から少し歩き、林に覆われた山奥を進むと、突然、目の前が開けて花畑に囲まれた場所にある。

あまりの美しさに、冬夜は思わず息を飲んだ。

真っ赤なソメイヨシノと色とりどりの草花が風に揺れ──その光景に、冬夜の記憶が静かに呼び覚まされていく。


『若様……若様……』

揺れる漆黒の長い髪。

真珠のように透明で艶やかな白い肌。

鈴の音のように可愛らしく、綺麗な声。

あれは……いつの記憶?

冬夜が頭を抱え膝を落とすと

「大丈夫ですか?」

その声に、冬夜はハッとして顔を上げた。

そこには、心配そうに彼の身体を支える、美しい女性の姿があった。

『ドクリ』と心臓の音が聞こえた。

それはたった今、思い出しかけていた女性の姿だった。

どうやら山菜を摘んでいたらしく、足元に山菜を入れた籠が落ちていた。

驚いて女性を見つめていると、その女性も冬夜の顔を見て驚いた顔になり

「す……すみません。あの……大丈夫なようでしたら、私はこれで……」

と、急いで落とした籠を拾い、逃げるように去ってしまった。

その声は鈴の音のように美しく、冬夜の心臓を鷲掴みにされた。

しかしそれは、初めて会った人というよりも、ひどく懐かしい人と出会った感覚だった。

「あれは……」

そう呟くと

『翡翠』

と、呼ぶ声が聞こえる。

 冬夜が声の方に視線を向けると、自分に良く似た……でも、自分では無い和服を着た男性が湖に立っている。

男性は懐から笛を出すと、その笛を奏で始める。

その音色は何処か懐かしく、そして悲しい音色。

『若様、またこちらにお越しでございますね……』

さっきの女性が、微笑みながら男性に近付く。


『翡翠』

男性はさっきの女性の頬に優しく触れ、そっと抱き寄せた。


『若様、私はずっと、若様のお傍におります』

幸せそうに微笑む彼女に、男性は悲しそうな笑顔を浮かべた。


(本当は……兄上と共に生きたかったのではないのか?)


その感情が、冬夜の胸の奥に流れ込んでくる。


「くだらねぇ……」

冬夜は男性の感情を否定するように呟く。


「俺は俺だ。お前が過去にどうであろうと、知ったことじゃねぇ……」


まるで、自分に言い聞かせるかのように──。

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