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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第三章
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だし巻き玉子の味は……大事です!

 幸太の様子に、遥と冬夜が顔を見合わせた。

彼の表情には、どこか決意めいた影が宿っていた。

「実は僕、会議の後もずっと『千年桜の呪い』の件を調べてました。

この話は、巫女と青年の悲恋という簡単な話ではなかったみたいなんです」


 一度車に戻り、まずは教えてもらった神社へと向かう車中で、幸太は話し始めた。

「……というと?」

後部座席に座る遥が、助手席の幸太へ身を乗り出す。運転席の冬夜は苦笑いを浮かべた。

「とりあえず、あと少しで神社だ。昼休憩がてら、その話をゆっくり聞いたらどうだ?」

冬夜の言葉に、遥は慌ててシートに身体を預ける。


 ここに来るまでの間も不安だったが、あの女性に出会ってから、胸の奥に黒い靄が沈み込むような重苦しさを、なおさら強く感じていた。


 神社に着き、駐車場らしき場所に車を停めると、運転席と助手席を倒してフラットにし、昼食を取ることにした。

「じゃ〜ん! 佐藤さん特製のお弁当です!」

幸太は努めて明るく言い、リュックから使い捨て容器に入ったおにぎりとおかずを取り出した。

「佐藤さん?」

「うん、幸太の家のお手伝いさんだよ」

冬夜が尋ねると、遥は「あぁ」と小さく頷いた。

「お手伝いさんって……やっぱりお前、坊ちゃんなんだな」

驚いた顔をする冬夜に、

「え? 普通ですよね? 遥先輩」

と、悪びれもせず幸太が話を振る。


 遥は内心、「住む世界が違う」と言われるんじゃないかとビクビクしていたが、冬夜は大して気にも留めず、

「ふ〜ん」

とだけ答えて、おにぎりを口にした。

「うま!」

冬夜の叫びに、

「でしょう! 佐藤さん、料理がめちゃくちゃ上手いんですよ! この唐揚げと、だし巻き卵も食べてみてくださいよ!」

幸太は嬉しそうにおかずを勧める。

(……別に私の家がどうだろうと、冬夜には興味が無い話なんだよな……)

遥は自嘲気味に笑い、美味しそうに食べる二人を見ていた。

「……ね、遥先輩」

突然声をかけられて我に返る。

「ごめん、話を聞いてなかった。何の話?」

慌てて取り繕うように微笑んで聞くと、

「だし巻き卵は、甘くなくちゃダメですよね!」

真剣な顔で幸太が言った。

「はあ?」

これから命を懸けて取材に行くというのに、緊張感のない話題に拍子抜けする。

「甘すぎだろう? だし巻き卵は、出汁の風味があるんだから、もっと甘味は少なくていい」

「何言ってるんですか! 冬夜さんは、佐藤さんの料理を否定するんですか?」

「はあ? 好みの話だろうが!」

 くだらない話題で言い合う二人に、遥は頭痛がしてきた。

「だし巻き卵が甘かろうが、しょっぱかろうが、どうでもいいだろうが……」

頭を抱えて呟いた遥に、冬夜と幸太は同時に、

「良くない!」

と声を揃えて叫んだ。


 遥はどうしようもない会話に苦笑しながら、当たり前の時間が続くことを祈らずにはいられなかった。

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