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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第三章
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人入らずの山

鬼ヶ村があると言われているその村は、かなり遠く、人里離れた場所にあった。

山の麓の人たちに取材をしても、誰もが鬼ヶ村があると言われる「人入らずの山」の話をしたがらない。

山の持ち主でさえ、その山の話をしてくれず、

「悪いことは言わん。その取材はやめたほうがええ。あの山は呪われとる」

怯えたようにそう言って、口を閉ざしてしまう。


 山の入口には門が立てられ、施錠されていて中に入ることはできなかった。

山の周りを一周しても入口が見つからず、諦めかけたその時だった。


「あの……人入らずの山へ行きたいのですか?」

一人の美しい女性に声をかけられた。

 その女性はまるで人形のように冷たく、生気のない顔をしていた。

ゾッとするほど美しいその女性に怯える遥と幸太をよそに、冬夜だけは何も感じないのか、落ち着いた声で答えた。

「はい。どうやら、この山は封鎖されてしまっているらしくて……」

「そうでしたか。

この山は……入ると最後、帰っては来られないと言われています。

それでも、行くのですか?」

まるで鈴の音のような、透き通る声で女性が言った。

「その声……」

冬夜がポツリと呟く。

「私の声ですか? 何か変ですか?」

女性が冷たく笑うと、冬夜は彼女の腕を掴み、取り乱したように叫んだ。

「その声は、あなたの声なんですか!」

女性は小さく微笑み、冬夜の頬に指を伸ばした。

「えぇ、私の声ですよ」


 触れた指先は氷のように冷たく、まるで生きているとは思えなかった。

血の気が引くのを必死にこらえ、遥は女性の間に割って入る。

「あんたは、誰だ!」


 必死に睨みつける遥に、女性は血の気が凍るような笑みを浮かべた。

「私? ふふ……私の名前は、翡翠」

「ひ……すい?」

冬夜が繰り返すと、女性は静かに頷いた。

「えぇ……冬夜様。翡翠です」

 翡翠と名乗った女性は、遥をゆっくりと見つめる。

「あなたは……まだ諦め切れないの? 往生際の悪い女」

人の声とは思えぬほど冷たく響く声に、遥は思わず後ずさった。


「あなたは、いったい何者ですか!

翡翠様は、そんな姿ではないはずです!」

それまで黙っていた幸太が、二人の前に飛び出して叫ぶ。

「お前……」

女性は驚いたように目を見開き、やがて微笑んだ。

「お前も一緒だったのか」

「え……?」

驚く幸太に、女性は静かに名乗った。

「我が名は(すい)──。

向こうで会えるのを、待っております」

 そう言って人入らずの山の隣に建つ神社を指さす。

「あの神社の社の裏に、大きな洞穴がある。あれが入口になる」

そして、

「行きは良い良い、帰りは怖い」

と、童歌のように歌い出すと、するりと二人の間を抜け、冬夜に近づいた。

「待っておりますよ、私の愛しい冬夜様」

 そう囁き、冬夜の唇に冷たい口づけを残した。

触れた唇は氷のように冷たく、冬夜の心を凍りつかせた。

「お前!」

遥が叫んだ瞬間、女性はゾッとするほど綺麗な笑顔を浮かべて消えた。

「冬夜……大丈夫か?」

呆然と立ち尽くす冬夜に遥が声を掛けると、幸太が顔を強ばらせて言った。

「今の人……翠って言ってましたよね?」

「え? あぁ、確かそう言ってたな。幽霊か何かか?」

遥が呟くと

「僕たちがこれから戦う相手は……大変な相手です」

幸太はそう呟くと、自らの頬を両手で叩いた。

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