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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第五章
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絶望を食らう者

その頃、冬夜は翠と対峙していた。


「おやおや、自ら殺されに来るなんて……」


小馬鹿にするように笑う翠を前に、冬夜は刀にかけてある神水を一度払うように振った。


「何とでも言え。俺はお前を殺して、翡翠を連れて行く」


冬夜の言葉に、翠は一瞬目を見開いた後──堪えきれないというように高笑いした。


「愉快ですねぇ。……あの女、まだ“私たちの秘密”を話していないんですか?」


嘲るように肩を震わせる翠に、冬夜は静かに言い放つ。


「知っている。それでも……俺は翡翠と共に生きることを諦めない!」


翠はその言葉にますます楽しげに笑った。


「良いですね良いですね……。その強い意志を宿した瞳が、絶望で歪む瞬間を思うと──たまりませんよ」


心底楽しそうに、腹を抱えて笑う。


「私たちはね、人間の醜い欲望や羨望……“絶望”が大好物なんだよ。冬夜、お前は本当に……素晴らしい」


そう言った瞬間、翠はいつの間にか冬夜の目の前に立ち、顎を掴んだ。


「その綺麗な瞳が、絶望の涙で濡れたら……さぞ美しいだろうね」


うっとりと呟く翠に、冬夜が剣を振り下ろした。


『ザンッ』


確かな手応えはあった。しかし──


翠は血一滴流さず、笑ったまま立っていた。


「効かないんですよ……冬夜。まったく痛くも痒くもない。さぁ、次はどうします? 冬夜」


鼻先が触れそうな距離で囁く翠は、美しい容姿のくせに、人間の温度を持たない“人形”のようだった。


「どうしたの? もう、おしまいですか?」


長い指先が冬夜の頬をなぞる。


冬夜が鬱陶しげに手を払うと、翠は甲高く笑った。


「あはははっ! 冬夜、冷たい。翡翠にはあんなに情熱的に触れるくせに……」


狂気じみた笑い声が夜空に響く。


その余裕の顔を見れば見るほど、冬夜の胸に冷たい不安が滲んだ。


(……まさか。本当に、翡翠を救う方法なんて……無いのか?)


そんな冬夜の揺らぎを、翠は見逃さない。


「良い目だねぇ、冬夜。その不安に揺れた瞳……たまらないよ。ねぇ、もっと残酷な話、しようか?」


翠は楽しげに話し始めた。


「お前はね、両親に望まれて生まれた。でも、そんな幸福な家庭に育ったら──“孤独”にならないだろう? だから、親から引き離してやったのさ」


冬夜の目が大きく見開かれる。


翠は続ける。


「それなのにお前ったら、孤児院の院長夫婦に可愛がられちゃって……だから、孤児院ごと火事にしてやったんだよ」


あまりに楽しそうに語る翠に、冬夜の息が止まった。


「じゃあ……オヤジが死んだのも……大津弁護士が死んだのも……」


翠は破顔した。


「あぁ、全部私がやったよ。どれだけ警告しても、アイツら“冬夜を愛してる”なんて言うんだもの」


高笑いする翠に、冬夜の全身が震えた。


「……笑うな!」


冬夜は、生まれて初めて──

心の底から“憎い”という感情を知った。


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