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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第五章
115/120

過去と今を越えて、友になれる日が来るなら

「え?」


「同じ学校で出会って、二人で恋バナしたり……」


遥が小さく笑った。


「恋……バナ?」


「ん~、分からないか。好きな人の話をすることを“恋バナ”って言うんだよ」


そう説明すると、遥は照れたように笑った。


「ずっと……そういうのをする女子を見下してたんだけどさ。

でも不思議と、翡翠さんとは色々話してみたかったなぁ~って思って」


その言葉を聞いた瞬間、翡翠の瞳から涙がこぼれた。


「え? えぇっ!? なに、そんなに嫌だった!?」

驚く遥に、翡翠は慌てて首を激しく横に振る。


「違います……! 違うんです……!

ただ……“晶様は晶様なんだ”って……思ってしまって……」


涙を拭いながら、翡翠はかすかに笑った。


「え?」


「晶様も……同じことを仰ったのです。

“君と友達になりたかった”って……」


「そう……なんだ」


遥は静かに息を吸った。

自分にとって前世は“遠い昔話”に過ぎないけれど、翡翠は千年前からずっと続く記憶の中で生きている。

その事実を、今さらのように痛感した。


すると翡翠が急にファイティングポーズを取り、


「あっ、でも大丈夫ですから!

晶様は晶様! 遥さんは遥さん! ちゃんと分かってます!」


と、元気いっぱいに叫んだ。


そして少し照れながら続ける。


「冬夜さんに言われたんです。

“たとえ俺が友頼様の魂を持っていたとしても、人格は『日下部冬夜』という一人の人間だ。

俺を通して友頼を見るな!”……って」


「……冬夜が? 本当に?」


「はい! こんな顔して!」


翡翠は目を釣り上げ、全力で“冬夜の怒り顔”を再現した。

そのあまりの迫力に、遥は吹き出してしまう。


「切れ長の目をしていらっしゃるから、怒ると本当に怖いんですよ!」


ぷんぷん怒る翡翠に、遥は笑いながら思う。


(……なるほど。冬夜は案外“重い男”だったんだな。

過去の自分に嫉妬するなんて……)


ずっと他人に無関心で、誰のことも気にしない冬夜しか知らなかった。

そんな彼にも、こんな人間臭い一面があったんだ──そう思うと、不思議と胸は痛まなかった。


むしろ……


(どうやってあの鉄面皮を崩してやろうか)


そんな事を考えてほんの少しだけワクワクする自分に気付く。


それはきっと、幸太のおかげだと分かっていた。


どんな時でも、どんな自分でも……幸太は必ず、


『そのままで良いんですよ』


と受け止めてくれた。


今はまだ、幸太の気持ちには応えられない。

でも──

今度は自分が、幸太の支えになれたらいい。遥はそう思った。


(私も……大概だな)


自嘲気味に笑う遥に、翡翠が不安そうに近付く。


「あの……だから私、遥さんは遥さんとして接しますから!」


どうやら何かを勘違いしているようだった。


遥は小さく笑い、


「あぁ……ごめん。今はちょっと違うこと考えてただけ。

私は別に、どっちでもいいよ。

過去も今も未来も……私は私だからね」


そう穏やかに答えた。


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