過去と今を越えて、友になれる日が来るなら
「え?」
「同じ学校で出会って、二人で恋バナしたり……」
遥が小さく笑った。
「恋……バナ?」
「ん~、分からないか。好きな人の話をすることを“恋バナ”って言うんだよ」
そう説明すると、遥は照れたように笑った。
「ずっと……そういうのをする女子を見下してたんだけどさ。
でも不思議と、翡翠さんとは色々話してみたかったなぁ~って思って」
その言葉を聞いた瞬間、翡翠の瞳から涙がこぼれた。
「え? えぇっ!? なに、そんなに嫌だった!?」
驚く遥に、翡翠は慌てて首を激しく横に振る。
「違います……! 違うんです……!
ただ……“晶様は晶様なんだ”って……思ってしまって……」
涙を拭いながら、翡翠はかすかに笑った。
「え?」
「晶様も……同じことを仰ったのです。
“君と友達になりたかった”って……」
「そう……なんだ」
遥は静かに息を吸った。
自分にとって前世は“遠い昔話”に過ぎないけれど、翡翠は千年前からずっと続く記憶の中で生きている。
その事実を、今さらのように痛感した。
すると翡翠が急にファイティングポーズを取り、
「あっ、でも大丈夫ですから!
晶様は晶様! 遥さんは遥さん! ちゃんと分かってます!」
と、元気いっぱいに叫んだ。
そして少し照れながら続ける。
「冬夜さんに言われたんです。
“たとえ俺が友頼様の魂を持っていたとしても、人格は『日下部冬夜』という一人の人間だ。
俺を通して友頼を見るな!”……って」
「……冬夜が? 本当に?」
「はい! こんな顔して!」
翡翠は目を釣り上げ、全力で“冬夜の怒り顔”を再現した。
そのあまりの迫力に、遥は吹き出してしまう。
「切れ長の目をしていらっしゃるから、怒ると本当に怖いんですよ!」
ぷんぷん怒る翡翠に、遥は笑いながら思う。
(……なるほど。冬夜は案外“重い男”だったんだな。
過去の自分に嫉妬するなんて……)
ずっと他人に無関心で、誰のことも気にしない冬夜しか知らなかった。
そんな彼にも、こんな人間臭い一面があったんだ──そう思うと、不思議と胸は痛まなかった。
むしろ……
(どうやってあの鉄面皮を崩してやろうか)
そんな事を考えてほんの少しだけワクワクする自分に気付く。
それはきっと、幸太のおかげだと分かっていた。
どんな時でも、どんな自分でも……幸太は必ず、
『そのままで良いんですよ』
と受け止めてくれた。
今はまだ、幸太の気持ちには応えられない。
でも──
今度は自分が、幸太の支えになれたらいい。遥はそう思った。
(私も……大概だな)
自嘲気味に笑う遥に、翡翠が不安そうに近付く。
「あの……だから私、遥さんは遥さんとして接しますから!」
どうやら何かを勘違いしているようだった。
遥は小さく笑い、
「あぁ……ごめん。今はちょっと違うこと考えてただけ。
私は別に、どっちでもいいよ。
過去も今も未来も……私は私だからね」
そう穏やかに答えた。




