届かぬ願い、斬れぬ想い
二人は水筒をキャッチすると、竹筒の封を口元で開けて身体と刀……、薙刀にそれぞれがかけた。
「遥……水も滴る良い男だな……」
「ハッ……言ってろ!」
濡れた髪の毛をかきあげ、遥が笑った。
「……いや、マジで。お前、性別間違っただろう?」
冬夜の言葉に、遥は小さく笑った。
月光が、静かに遥の姿を照らし出す。
その美しさに、思わず冬夜は息を飲んだ。
「冬夜、今更惚れても遅いぞ!」
「ば~か、惚れるかよ!」
そう言って、冬夜も濡れた前髪をかきあげた。
水滴が飛ぶと、キリがなく地面から現れるゾンビが消えて行く。
「冬夜、凄くないか? ゲームの聖水みたいだ!」
「ゲームじゃないけど、聖水なんじゃねぇの?」
二人は言いながら、ゾンビを倒して前へ前へと進んで行く。
「……にしても、キリがねぇな!」
ポツリと冬夜が呟いた時、ポツポツと雨が降り始めた。
「雨?」
遥は呟き、空を見上げた。
空には満天の星空と、月が輝いている。
辺りを見回した時、翡翠が両手を天に向けて開いていた。
彼女の唇から、歌が聞こえる。
それは温かくも優しい歌声だった。
そして彼女の後ろには、あの湖があった。
湖の水が、うねりを上げて天高く上り、優しく雨のように水を降らせている。
ゾンビは悲鳴をあげ、水に当たって跡形もなく消えて行った。
すると、グラリと翡翠の身体が揺らいだ。
冬夜は考えるよりも先に翡翠の元へと駆け付けて、彼女の身体を受け止めた。
「翡翠!」
「間に合って……良かった……」
翡翠は小さく笑うと
「鬼ヶ村と人間の里を隔てる湖は、鬼神が清めた聖水です。きっと……お二人を守ってくださいます」
そう呟いた。
そして袂から竹筒を取り出し
「これを……幸太さんに……」
震える手で冬夜に手渡した。
「翡翠、大丈夫か?」
心配そうに顔を歪める冬夜に、翡翠は冬夜の手にそっと触れ
「冬夜さん、その刀で……私の胸を貫いてください」
そう言って微笑んだ。
「は? ……なに言ってるんだ」
驚く冬夜に
「翠をいくら斬っても……死にません。翠の本体は……私です」
真っ直ぐに見つめて翡翠が呟いた。
「翡翠を斬れって? 俺に?」
「私と翠を殺せるのは、冬夜さん……あなただけなの!」
涙を流し、翡翠が訴えた。
「無理だ!」
「夜は翠の時間で、私の力はほとんど残っていません。私を殺すなら……今しかないんです!」
翡翠はそう叫んだ後
「お願い……、もう……眠らせて……」
それは、死ぬことの出来ない者の、悲痛な訴えだった。
「ごめん……無理だ。俺に……翡翠が斬れるわけがないだろう……」
冬夜が翡翠を抱き締めて、身体を震わせて俯いた。




