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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第五章
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届かぬ願い、斬れぬ想い

二人は水筒をキャッチすると、竹筒の封を口元で開けて身体と刀……、薙刀にそれぞれがかけた。

「遥……水も滴る良い男だな……」

「ハッ……言ってろ!」

濡れた髪の毛をかきあげ、遥が笑った。


「……いや、マジで。お前、性別間違っただろう?」

冬夜の言葉に、遥は小さく笑った。

月光が、静かに遥の姿を照らし出す。

その美しさに、思わず冬夜は息を飲んだ。

「冬夜、今更惚れても遅いぞ!」

「ば~か、惚れるかよ!」

そう言って、冬夜も濡れた前髪をかきあげた。

水滴が飛ぶと、キリがなく地面から現れるゾンビが消えて行く。

「冬夜、凄くないか? ゲームの聖水みたいだ!」

「ゲームじゃないけど、聖水なんじゃねぇの?」

二人は言いながら、ゾンビを倒して前へ前へと進んで行く。


「……にしても、キリがねぇな!」

ポツリと冬夜が呟いた時、ポツポツと雨が降り始めた。

「雨?」

遥は呟き、空を見上げた。

空には満天の星空と、月が輝いている。

辺りを見回した時、翡翠が両手を天に向けて開いていた。

彼女の唇から、歌が聞こえる。

それは温かくも優しい歌声だった。


そして彼女の後ろには、あの湖があった。

湖の水が、うねりを上げて天高く上り、優しく雨のように水を降らせている。

ゾンビは悲鳴をあげ、水に当たって跡形もなく消えて行った。

すると、グラリと翡翠の身体が揺らいだ。

冬夜は考えるよりも先に翡翠の元へと駆け付けて、彼女の身体を受け止めた。

「翡翠!」

「間に合って……良かった……」

翡翠は小さく笑うと

「鬼ヶ村と人間の里を隔てる湖は、鬼神が清めた聖水です。きっと……お二人を守ってくださいます」

そう呟いた。

そして袂から竹筒を取り出し

「これを……幸太さんに……」

震える手で冬夜に手渡した。

「翡翠、大丈夫か?」

心配そうに顔を歪める冬夜に、翡翠は冬夜の手にそっと触れ

「冬夜さん、その刀で……私の胸を貫いてください」

そう言って微笑んだ。

「は? ……なに言ってるんだ」

驚く冬夜に

「翠をいくら斬っても……死にません。翠の本体は……私です」

真っ直ぐに見つめて翡翠が呟いた。

「翡翠を斬れって? 俺に?」

「私と翠を殺せるのは、冬夜さん……あなただけなの!」

涙を流し、翡翠が訴えた。

「無理だ!」

「夜は翠の時間で、私の力はほとんど残っていません。私を殺すなら……今しかないんです!」

翡翠はそう叫んだ後

「お願い……、もう……眠らせて……」

それは、死ぬことの出来ない者の、悲痛な訴えだった。

「ごめん……無理だ。俺に……翡翠が斬れるわけがないだろう……」

冬夜が翡翠を抱き締めて、身体を震わせて俯いた。

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