夜を裂く二つの刃
「さて……、俺もやられてばかりは性にあわないんだよね」
そう言って、冬夜はゆっくりと立ち上がった。
いつの間に用意してあったのか、枕元には刀が置いてあった。
冬夜は刀を持つと
「遥は危ないから、ここで待ってろ」
と言って歩き出した。
しかし、遥は冬夜の腕を掴み
「私も一緒に行く。幸太は、私が救う」
そう言って部屋に急いで戻り、外出着に着替えた。
遥が冬夜の待つ玄関に行くと、冬夜が遥に短刀を投げて来た。
「これは?」
「さぁ? 部屋にあった。何かあったら、お前もそれを使え」
そう言って、冬夜が玄関の引き戸に手を掛けた。
「行くぞ!」
冬夜の声に、遥は神妙な顔で頷く。
ドアを開き、一歩前へと踏み出した。
月明かりが、夜の闇に薄明かりを照らしていた。
ザッザッ……
靴が土を踏みしめる音が闇の中に響く。
「なぁ、冬夜。何で私が短刀?」
突然の遥の問いに、冬夜が苦笑いを浮かべると
「ほら、持ってみろ」
片手で渡され、手にして思わず叫んだ。
「おっっも! 刀って、こんなに重いの?」
ニヤニヤして冬夜は遥から刀を受け取ると
「片手で持てないだろう?」
と言って笑った。
「冬夜、何で持てるんだ?」
「はぁ? カメラマン舐めんな」
そう言って笑っている。
遥は不思議だった。
あんなに切なかった冬夜の笑顔が、今は自然と受け止められている。
冬夜はこんな風にあどけなく笑うんだ……と、遥は嬉しくなった。
「冬夜……」
「ん?」
「やっと……お前と本当に友達になれたよ」
と、遥は笑った。
冬夜は遥の笑顔を見て
「俺は、ずっと友達だったけどな」
そう言って笑った。
不思議だ。
あんなに辛かったのに、胸はもう痛まない。
「さて、では……囚われの姫を助けに行きますか!」
腕まくりして呟いた遥に、冬夜が
「え? 姫って幸太の事じゃないよな?」
顔を嫌そうに歪めて呟いた。
「はぁ? 幸太だよ」
「刀振り回す姫?」
「私、見てないからな」
「お前……自己中……」
「今更?」
冬夜と遥は、顔を見合わせて声を上げて笑った。
「さて、冗談はさておき……」
「行きますか!」
冬夜と遥は、元鬼ヶ村の入口に並んで立った。
──風が止んだ。
静寂を破るように、地の底から鈍い振動が伝わる。
それはやがて呻き声へと変わり、闇を這い上がってきた。
「なぁ……冬夜」
「ん?」
「私ら、とっても歓迎されているみたいね」
遥は苦笑いを浮かべ、短刀を鞘から抜いた。
「ヒールはこうじゃなきゃ」
冬夜も言いながら、ゆっくりと抜刀する。
「え? ヒール? ヒーローでしょう?」
「はぁ? 俺たち、ヒーローって柄じゃ……ねぇだろう?」
そう言うと、土からボコボコと現れたゾンビを片っ端から斬り捨てて行く。
遥は短刀が面倒になり、冬夜が斬り捨てたゾンビの薙刀を掴んで振り回した。
「ひいばあちゃん直伝の薙刀が、まさか役に立つとはね」
そう言うと、遥は高速でゾンビの身体を斬り捨てて行く。
ゾンビは斬り捨てられると、砂になって消えて行く。
その時だった。
「これを身体に撒いて」
翡翠の声と共に、冬夜と遥に竹筒で作った水筒が投げられた。




