それでも、君を守りたい
「遥先輩……聞いて良いですか?」
幸太は、意を決して口を開いた。
「?」
疑問の眼差しを送る遥に、次の質問は『別れ』を意味してしまうかもしれない。
そう、幸太は思った。
それでも……確認しないと、幸太自身が前に進めないと思ったのだ。
「僕の想いは……負担ですか?」
幸太の問いに、遥が息を飲んだ。
それは……幸太にとって“肯定“を意味していた。
幸太は膝で握りこぶしを握り締めると
「わかりました。……もう、遥先輩を追いかけません。今まで、すみませんでした」
そう言って、その場を立ち去った。
襖を開けると、そこには冬夜が立っていた。
何か言いたそうな顔をしていたが、今は冬夜と話をしたくなかった。
「頭を冷やして来ます」
幸太はそう言って、屋敷を後にした。
「うわぁぁぁー!!!」
幸太は屋敷から離れた場所に行くと、そう叫んで走り出す。
何処に行くのかも分からず、ただひたすら走った。
悲し過ぎると、涙も出ないんだな……と苦笑いを浮かべた。
その時、足が何かに引っかかって幸太は転倒してしまう。
土を握り締め、涙を奥歯で噛み締める。
ふと見上げた先に、千年桜の真っ赤な花が咲いているのが見えた。
「ソメイヨシノは、薄いピンクだから綺麗なんだな……。お前はなんか、毒々しいや……」
小さく笑い、幸太はゴロンと横になって空を見上げた。
風もないのに、サヤサヤと真っ赤なソメイヨシノが凪いでいる。
「なに? 慰めてくれてるの?」
じき、日が暮れる前の青空を見上げた。
「僕さ……好きな人に重い男だったんだ」
そう呟いた時、涙が込み上げて来た。
「……それでも、好きな人を助けたいって思うのは……相手には迷惑なのかな?」
ポツリと呟いた言葉は、薄いオレンジ色に染まり始めた空に溶けて消えて行く。
「なぁ……お前も、薄いピンクのソメイヨシノに戻りたい?」
幸太の問いに答えるかのように、サヤサヤとソメイヨシノの花が揺れる。
「今夜……満月なんだ。力……貸してくれよな」
一気に立ち上がり、幸太はソメイヨシノを見上げて呟いた。
真っ赤なソメイヨシノは、幸太の声に応えるように、ずっとサヤサヤと花を揺らしていた。
その時、ひとひらのソメイヨシノが風に舞った。
ヒラヒラと音もなく空に舞い上がり、幸太の襟にゆっくりと舞い落ちた。




