仲間という名の絆
ドアの向こう側で、翡翠が湯浴みを始めた音が聞こえて、ホッと息を吐いた。
冬夜はゆっくりと向きを変え、遥の部屋へと歩き出した。
「幸太、居るのか?」
遥の部屋の前で声を掛けると、スーッと襖が静かに開いた。
中から幸太が現れ
「遥先輩が……目覚めません」
そう言って涙を浮かべた。
「このまま眠り続けたら、死んじゃうんじゃないかって……不安で」
俯いて呟く幸太に、冬夜は何も言えずにいた。
大丈夫……とは軽く言えないし
なんとかなる……はもっと違う
こんな時、冬夜は自分のコミュニティ能力の低さを痛感する。
幸太なら、きっと自分が前向きになる言葉を必ずくれる。
そんな自分が歯がゆい。
冬夜はここで暮らし始めて、こんな思いを何度もしている。
その度、こんなにも自分はちっぽけで、小さな人間なのだと痛感させられる。
「悔しいな……」
思わずポツリと漏れた言葉。
「え?」
幸太が驚いた声を上げた。
「あ……すまない。一番苦しいのは幸太なのに……」
冬夜は慌てて口元を抑えて呟くと
「幸太ならこんな時、気の利いた言葉を言えるだろうな……って思ってな」
そう言って、苦笑いを浮かべた。
「心配……してくれてるんですか?」
幸太が目を見開いて呟くと
「当たり前だろうが! 幸太も遥も……大切な仲間だからな」
照れくさそうに笑う冬夜に、幸太の瞳から涙が一粒流れて落ちた。
「えっ! なんで泣く?」
驚く冬夜に
「長かった……、ダメ冬夜さんに付き合って数年。ようやく仲間として認めてもらった」
と、幸太が泣き真似し始めた。
いつもの幸太の姿を見て、冬夜はホッと息をもらした。
「でも、知りませんでした」
「なんだ?」
「冬夜さんが、僕のことをそんなに大好きなんて」
「はぁ?」
いつもの軽口だと思って幸太の顔を見ると、幸太が本当に嬉しそうに笑っていた。
「僕の気持ちに……寄り添ってくれたんですよね」
「………………まぁな」
照れくさそうに鼻の頭をかく冬夜に、幸太は
「あれあれ? 冬夜さん、照れてる?」
とからかうと
「うるさい!」
そう叫んで幸太の頭を叩いた。
「痛いっ! 暴力反対!」
「お前が揶揄うからだろうが!」
そう言いながら、楽しそうな笑い声が屋敷に響き渡っていた。
心配で、急いで湯浴みしてから着替えて来た翡翠は、少し離れた場所から複雑な心境でその笑い声を聞いていた。
翡翠はその笑い声を聞きながら、そっと祈った。
どうか……どうか……、幸太と遥の翠による呪縛が解けますように……と。
その祈りは静かに、楽しげな笑い声の中に溶けて行った。




