翠と翡翠
「お前が張った結界のせいで、あの屋敷の中には入れない。だが、ここに連れて来れば問題ない。
……あぁ、でもね翡翠。感謝しているんだよ。今回も、お前が生贄を上手く誘惑してくれて助かっているよ」
翠はそう言って、翡翠の顎を掴んだ。
「お前は、最後まで私に生贄を差し出す為の人形さ」
そう言って翡翠を抱き寄せた。
身体を翠の手が這い
「この顔と身体で誘惑して、最後には愛する男が果てた瞬間に生き血を喰らう……。
あぁ……なんて残酷で、美しい女なんだろうね……翡翠」
翠がクスクスと笑う。
その言葉に、翡翠は翠を睨み上げた。
そう──目覚めたばかりの頃は気付かなかった。
友頼の魂を持った男が現れ、翡翠は感情のままに相手を求め愛した。
しかし、夜を共にした翌日──その人は翡翠の前から消えてしまう。
同じ現象が──二度、三度と重なり、翡翠は疑問に思った。
昼間の逢瀬では、相手は消えない。
しかし、夫婦になって共に暮らし始めた翌日、最愛の人が消えてしまうのだ。
なぜ……
どうして……?
翡翠は悲しみに何度も自死を試したが、身体は直ぐに回復してしまう。
そんな中、又、友頼の魂が自分の前に現れた。
もしかしたら……夜に何かあるのかもしれない。
翡翠はそう思い、別々に暮らしてみようと考えていた。
しかし、満月の夜。
月が川面に映し出された姿を見ていると、自分の意識が遠くなっていくのに気付いた。
「翡翠!」
名を呼ばれ、愛しい人の魂を持った器が自分を抱き締めた。
「大丈夫か? 翡翠」
半分、夢うつつで居ると
『大丈夫です。ご心配をお掛けして、すみません』
自分の口が、そう語り出す。
(待って! 私じゃない!)
翡翠は、見えない透明の壁に阻まれて先に進めない。
翡翠は自分を抱き寄せるその人物の胸に頬を寄せ、誘惑の視線を送る。
頬に触れ、唇を重ね……やがて互いの熱を重ねて行く。
激しく求め合い、互いの熱が頂点に達した瞬間だった。
翡翠の口に牙が生え、相手の首にかじりついた。
生暖かいヌルりとした感触──その直後、愛しい人の魂が宿っていた器の重みが翡翠にのしかかった。
──そこにはもう、愛しい人の魂は存在しなかった。
両手にまとわりつく赤い鮮血の意味に気付き、翡翠は絶望の慟哭を上げた。
『翡翠、真実を知った気分はどうだい?』
翠の声が聞こえる。
「ど……して? なんで……!!」
泣き叫ぶ翡翠に
『感謝して欲しいんだけどなぁ~。恐怖を感じずに、最高の状態で死ねるんだ』
翠はそう言ってクスクスと笑う。
それはまるで、好きな玩具で楽しそうに遊ぶ子供のようだった。
その無邪気さが、翡翠の心を凍らせた。
『それにね、その時の血が一番上手いのさ』
ニタリと笑った残忍な笑顔を見て、翡翠は悟った。
自分にはもう──友頼を愛する資格はないのだと。
堕落したあの姿は、もう一人の自分。
その罪も罰も……受け入れるしかないのだと……。
おはようございます。
いつも変わらず読みに来て下さる皆さま、本当にありがとうございます。
こんなコアな作品を楽しんで頂けて、心から嬉しく思っています。
今朝は少し大人めの内容でしたが……読みにくい部分などありませんでしたでしょうか?
ここから物語は、さらに切なく、深い部分へと進んでいきます。
最後まで見届けて頂けたら、とても嬉しいです。
次回更新は20時。
またお会いできるのを楽しみにしています。




