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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第五章
101/120

翠と翡翠

「お前が張った結界のせいで、あの屋敷の中には入れない。だが、ここに連れて来れば問題ない。

……あぁ、でもね翡翠。感謝しているんだよ。今回も、お前が生贄を上手く誘惑してくれて助かっているよ」

翠はそう言って、翡翠の顎を掴んだ。

「お前は、最後まで私に生贄を差し出す為の人形さ」

そう言って翡翠を抱き寄せた。

身体を翠の手が這い

「この顔と身体で誘惑して、最後には愛する男が果てた瞬間に生き血を喰らう……。

あぁ……なんて残酷で、美しい女なんだろうね……翡翠」

翠がクスクスと笑う。

その言葉に、翡翠は翠を睨み上げた。


 そう──目覚めたばかりの頃は気付かなかった。

友頼の魂を持った男が現れ、翡翠は感情のままに相手を求め愛した。

しかし、夜を共にした翌日──その人は翡翠の前から消えてしまう。

同じ現象が──二度、三度と重なり、翡翠は疑問に思った。

昼間の逢瀬では、相手は消えない。

しかし、夫婦になって共に暮らし始めた翌日、最愛の人が消えてしまうのだ。


なぜ……

どうして……?


翡翠は悲しみに何度も自死を試したが、身体は直ぐに回復してしまう。


そんな中、又、友頼の魂が自分の前に現れた。

もしかしたら……夜に何かあるのかもしれない。

翡翠はそう思い、別々に暮らしてみようと考えていた。

しかし、満月の夜。

月が川面に映し出された姿を見ていると、自分の意識が遠くなっていくのに気付いた。


「翡翠!」

名を呼ばれ、愛しい人の魂を持った器が自分を抱き締めた。

「大丈夫か? 翡翠」

半分、夢うつつで居ると


『大丈夫です。ご心配をお掛けして、すみません』

自分の口が、そう語り出す。


(待って! 私じゃない!)


翡翠は、見えない透明の壁に阻まれて先に進めない。


翡翠は自分を抱き寄せるその人物の胸に頬を寄せ、誘惑の視線を送る。

頬に触れ、唇を重ね……やがて互いの熱を重ねて行く。

激しく求め合い、互いの熱が頂点に達した瞬間だった。

翡翠の口に牙が生え、相手の首にかじりついた。

生暖かいヌルりとした感触──その直後、愛しい人の魂が宿っていた器の重みが翡翠にのしかかった。


──そこにはもう、愛しい人の魂は存在しなかった。

両手にまとわりつく赤い鮮血の意味に気付き、翡翠は絶望の慟哭を上げた。


『翡翠、真実を知った気分はどうだい?』

翠の声が聞こえる。

「ど……して? なんで……!!」

泣き叫ぶ翡翠に

『感謝して欲しいんだけどなぁ~。恐怖を感じずに、最高の状態で死ねるんだ』

翠はそう言ってクスクスと笑う。

それはまるで、好きな玩具で楽しそうに遊ぶ子供のようだった。

その無邪気さが、翡翠の心を凍らせた。


『それにね、その時の血が一番上手いのさ』


ニタリと笑った残忍な笑顔を見て、翡翠は悟った。

自分にはもう──友頼を愛する資格はないのだと。

堕落したあの姿は、もう一人の自分。

その罪も罰も……受け入れるしかないのだと……。

おはようございます。

いつも変わらず読みに来て下さる皆さま、本当にありがとうございます。

こんなコアな作品を楽しんで頂けて、心から嬉しく思っています。


今朝は少し大人めの内容でしたが……読みにくい部分などありませんでしたでしょうか?

ここから物語は、さらに切なく、深い部分へと進んでいきます。

最後まで見届けて頂けたら、とても嬉しいです。


次回更新は20時。

またお会いできるのを楽しみにしています。

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