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水鏡  作者: 古紫 汐桜
第五章
100/120

囁く闇──翠の誘惑

 そこは大きな洞穴の中、松明がたかれていた。

祭壇のような場所に、遥は眠っていた。

「翠は昼間、活動ができません。私と翠は背中合わせの関係……だから、日が落ちる前に、早く遥さんを──」

そう言って、幸太を中に招き入れた。


何の罠もなく、すんなりと遥を連れ出せた──だが、翡翠が首を傾げた。

「おかしいわ……。いつもなら、絶対に罠をはるのに……」

そう呟いたが、幸太は遥を救い出す事しか考えていなかった。

「きっと、運が良かったんですよ」

そう答えた瞬間だった。


「ちょこまかと、うるさい女だな……」

目の前に翠が現れた

「遥先輩は返してもらう!」

抱き抱えた遥を庇うように身体を捻り叫ぶと

「それは構わない。でも、その娘は目覚めたいと願うかな?」

そう言われて、幸太は眉を寄せた。

「その娘は、今、幸せな夢を見ているんだよ」

「幸せな夢?」

「そう。母親は出て行かず、この娘を愛情たっぷりに育て上げ、愛する男と幸せな毎日を送る夢」

そう言うと、翠は小さく笑って

「そう……お前ではない、愛する男と蜜月を過ごす夢だよ」

その言葉で、遥が誰と共にいるのかを悟った。

すると突然、背後に翠が現れ

「そうだよ、冬夜に抱かれる夢をみているのさ……」

耳元で囁かれる。


分かっていた──

遥先輩が求めているのは、僕じゃない……

どす黒い感情が、時間を置いて滲み出したシミのように、静かに、しかし確実に広がっていく。


「憎いよね……冬夜なんか、居なくなればいいのに──そう、思うよね?」


クスクスと聞こえる笑い声が、まるで夏の夜に聞こえるモスキート音のように酷く不快だった。


「冬夜が居なくなれば、遥はきみのものだよ」

翠が幸太の耳元で囁き続ける。


「ダメです! 翠の言葉に──心を奪われてはいけません」

必死に叫ぶ翡翠の声に

「じゃあ……どうしたら遥先輩は僕に振り向くの?」

幸太の言葉に、翡翠は息を飲んだ。


「クックック……翡翠、お前が何をしようと、無駄なんだよ。人は弱く……脆い。嫉妬や妬みで、平気で人を傷付け喜ぶ、醜い生き物なんだよ」

勝ち誇った笑みを浮かべる翠に

「そんなことありません! 確かに人間は弱くて脆い。だからこそ、嫉妬や妬みで道を誤る事もあるでしょう。……それでも、彼らはやり直せる力を持っています! 過ちを認め、受け止めて前を向いて歩く強さを持っています! 私は……私はそんな人間を信じています!」

翡翠はそう反論した。

すると翠は不快そうに翡翠を見下ろし

「信じる? では、この現状はなんだ? 人間など、所詮は私利私欲でしか生きられない害獣なんだよ!」

と叫んだ。

「違う! そんな人間ばかりではないです!

──薄井さん! 冬夜さんを支えてくれるって、約束しましたよね?」

必死に呼びかける声に、幸太からの返事はない。

「薄井さん! 翠の言葉に耳を貸さないで! お願い──あなたは、負けちゃダメ!」

祈りにも似た翡翠の叫び声に、幸太は自分を掴む翡翠の手を払い除けた。

「……そんな」

愕然とする翡翠に、翠は楽しそうに笑い

「これでも、人間を信じるのか? おめでたいな、翡翠。

──さぁ……遥、幸太。冬夜をここに連れて来なさい」

そう命令すると、二人はゆっくり頷いた。

「ダメよ、ダメ! 薄井さん! 遥さん!」

操られているのだろう。

生気のない瞳で、ゆっくりと静かに歩き出す。

その時、幸太の短剣が青白く光っているのが見えた。

「?」

翡翠はその短剣を見て、首を傾げた。

こんばんは!

ついにエピソード100に到達しました!


ここまで読んで下さった皆さま、本当にありがとうございます。

気づけば100話……なのに、まだ完結には程遠い長編になってしまいましたが、

それでも変わらず読みに来て下さる皆さまのお陰で書き続けられています。


この物語はいったい何話まで続くのか──

自分でも少しドキドキしながら書いています。


飽きられないように、これからも頑張って紡いでいきますね。


次回更新は明日の8時になります。

またお会い出来たら嬉しいです。

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