#9 精誇復古の大号令
瀞の城は、九頭竜渓を見下ろす白き石垣に守られていた。
広間の中央、焦げた村の地図と、濁った泉の水を汲んだ壺が置かれている。
帰還した者たちは言葉を失い、ただ膝を折り、額を床につけていた。
トキサダはゆっくりと膝を折り、壺を覗き込む。
水は墨のように黒く濁り、灰が沈み、底なしの淵を思わせた。
数百年もの間、民が祈りを捧げた泉は、いまや命を拒む毒の淵となったのだ。
側近ユキムラが一歩進み出て、低く告げる。
「……お館様、下知を」
その声の奥底に、燃えるような怒りが潜んでいた。
竜騎士の桜が竜槍を床に突き立てる。
重い音が広間を震わせ、空気が一瞬で凍りつく。
「泉が震えていました……あれは、竜の怒りです」
誰一人、言葉を返さなかった。
トキサダは目を閉じ、静かに立ち上がった。
深い沈黙の中、淡い光が生まれ、やがて眩い柱となって広間を満たす。
そこに現れたのは、草薙の剣。九頭竜の伝承と共に大和に受け継がれた、国そのものの刃。
トキサダはその柄に手をかけ、しばし黙した。
刃を抜いた瞬間、光は雷鳴のように弾ける。
「……精誇復古」
呟くような声が、広間の隅々まで響き渡る。
草薙の剣が応えるように、さらに強く輝いた。
トキサダは剣を掲げ、ゆっくりと瞼を開ける。
その瞳には、炎が宿っていた。
「──いくさだ」
短い宣言が、雷鳴のように城の壁を震わせた。