#3 ユトの独白
王都イシュレアの政庁会議室に、冷気のような緊張が満ちていた。宰相セラオルが声を荒らげる。
「砦を失い、ただ戻るとは何事だ!魔族に踊らされた貴殿の判断、国を危機に晒したも同然!」
同席の貴族や軍官も声を重ねたが、ユトは一言も発さなかった。指先で地図の端をなぞり、視線は北東の湾曲した境界線に注がれている。
──ユトは目を閉じ、指先で机の端を軽く叩いた。
(何を見に来た?)
砦を落としてまで、わざわざ。
(……見に来た?)
魔族にとっても、それは未知の物なのだろう。だから今も沈黙している。やつらも真意を掴めていない。
ユトは息を吐き、地図に視線を落とした。
「……今はこれでいい」
──彼がそう考えたとき、扉が開き、報告官が駆け込む。
「カルマル砦、奪還しました!」
議場に安堵の空気が流れた。
「うぉっほん」
文官の一人が立ち上がり、安堵しかけた場を断ち切るように声を上げた。
「砦を奪還したとはいえ、備蓄は焼かれ、外壁も破られたまま。機能回復には数か月はかかります。その間、他国が黙っている保証はありませんぞ」
文官の言葉に、再び視線がユトに集まる。
誰もが暗黙に、“その隙を作ったのはお前だ!"と示していた。
ユトは沈黙のまま、それを受け入れた。
彼自身がそれを一番理解している、だからこそ、砦を後にして、王都への岐路をいそいだのだから。