#18 風に乗って
ラカンは頬をかすめる風を感じながら、前方の空をにらんだ。
編隊を組んだ数十のプレーンが夜空を滑るように進み、下方に流れる集落の灯りがいつの間にか点となり、闇に溶けていく。
後方から、カモトの声が届いた。
「将軍、こりゃ二日半で着きますぜ!」
ラカンは口の端をわずかに上げ、呟く。
「いい風だ……祖霊が背を押してくれている」
前列の少し離れた位置に黒豹の耳を持つ若い兵士セイランが、緊張で背筋を伸ばし、ただ前だけを見据えていた。
その横で、タリムチリオがふわりと耳を揺らし、風に小さく囁く。
「精霊たちも、今夜は機嫌がいいみたい……」
タリムチリオは、膝の上の小袋を開けると、小さな鈴をひとつ取り出した。耳をぴくりと動かし、風に向かって軽く振る。──チリ…ン、と澄んだ音が夜空に溶けた。
「……来てくれる?」
小さく囁くと、淡い光がひとつ、プレーンの横を流れた。やがて二つ、三つと増え、見えない風の筋ができる。その波に、獣人たちの乗るプレーンがふわりと乗った。
「うわっ、なんだこれ!」
後列の若い兵が思わず声を上げる。小さな笑いが起き、硬かった空気がほぐれていく。
カモトが後ろで大きく笑った。
「よぉ、セイラン!お前もなんかやれ、初陣祝いだ!」
セイランは黒い耳を伏せ、顔をしかめる。
「……やりませんよ、そんなの」
だが、兵たちの視線が集まり、タリムチリオまで耳をぴくぴく揺らして笑う。
「見てみたいわね、隠密の身のこなし」
セイランはしばし無言のまま、肩をすくめて立ち上がった。
「……じゃあ、これだけですからね」
次の瞬間、黒い影が風を裂いた。セイランは自分のプレーンの縁を蹴り、一機、二機と前方へ飛び移る。さらに三機目に着地すると、その勢いのまま、宙返りして自分のプレーンへ後ろ向きに飛び戻った。風を切る音と共に、黒い尾が空で弧を描く。
「おおおっ!」
歓声と拍手が夜空に広がった。ラカンは肩を揺らし、口の端を上げた。
「……隠密のくせに、目立ちたがりだな」
セイランは耳を伏せ、少し赤い顔をそむけた。