#14 Eランクの勇者(中編)
「……ルーン様! 朝です! もうとっくに日が昇っています!」
ミルダの声が宿の部屋に響く。
布団の中のルーンは、顔だけ出してぼそっと言った。
「あと5分……」
すると、ドン! と枕を引きはがされる。
「そんなことでEランクの勇者になれるのですか!!」
ミルダの一喝で、ルーンはしぶしぶ起き上がった。
食卓には朝食とは思えないほどの料理がずらりと並んでいたが、
ルーンは特に気にせず食べ始める──もう毎日のことだから気にもならない。
そしてふと、パンをかじりながらつぶやいた。
「ミルダさん、僕はEランクになりたいし、目的は勇者だけど……つなげて言っちゃうとおかしなことになるんだ」
ミルダはお皿を片付けながら、さらりと答える。
「わかりました。今夜は良いランクの夕食を用意しておきます」
ルーンは思わず苦笑する。
「いや、そういう意味じゃなくて……」
しかしミルダは手を止めず、きっぱりと言った。
「そんなことより、これを持って早く出発してください。遅刻してしまいます」
そう言って大きなリュックを手渡す。
中には、今日もミルダ特製のお弁当とおやつがぎゅっと詰め込まれていた。
ルーンはリュックを背負い、軽く手を振る。
「それじゃー、いってきます!」
受付嬢から依頼書を受け取ったルーンは、街中を駆け回っていた。
--- 井戸の水汲み---
「ふんぬっ……これ、思ったより重いぞ!」
両手で抱えた桶から水がちゃぷんとこぼれ、足元の石畳が濡れる。
通りすがりのおばさんが笑顔で声をかけた。
「ありがとねぇ、王子さま」
ルーンは赤面しながらも「いえいえ!」と返す。
--- 鶏小屋の掃除---
「……コケーッ!」
羽が舞い散り、鶏たちが騒ぐ中、ルーンはほうきを振り回す。
服の袖にひっかき傷をつけられながらも、笑顔を崩さない。
「勇者になるためだ、これくらい!」
--- 荷物運び---
「はぁ、はぁ……あと三軒!」
腰を曲げたおばあさんの荷物を背負い、坂道を上るルーン。
横で見ていた子どもが目を丸くした。
「ほんとに王子さまなんだ……!」
--- 街角の掃除---
夕暮れ時、ルーンは箒を片手に路地裏のゴミを掃き集めていた。
通りがかった酒場の親父が声をかける。
「おーい王子さま、こっちの道も頼む!」
「はいよー!」
こうして──
子どもたちは「王子さまー!」と駆け寄り、
大人たちは「今日は何を手伝ってくれるんだ?」と笑顔を向ける。
街の人々はすっかりルーンと顔なじみになった。