南への道標
翌朝、俺たちは『金色の秤亭』の食堂で、『黒い短剣』の皆と一緒に朝食のテーブルを囲んでいた。
俺が手帳を広げ、次の目的地をどこにするか思案していると、フィオナがパンを齧りながら口を開いた。
「ねえ、ここの店主さんに聞いてみたら? あの人、珍しいものが大好きだから、面白い場所に詳しいかもしれないわよ」
「ああ、それはいい考えだ」
ゴードンもその案に賛成し、俺たちは食事を終えると、揃ってカウンターの店主のもとへ向かった。
「ここから行ける範囲で、どこか面白い場所はないだろうか」
俺が尋ねると、店主は待ってましたとばかりに目を輝かせた。
「それならいっそ、この国のもっと北、国境を越えた先にある帝都まで行ってみるってのはどうだい! 壮麗な建物が立ち並ぶ、まさに世界の中心さ! 馬車を乗り継げば、比較的安全に行けるぜ」
帝都。
その響きには確かに心惹かれるものがあった。
だが、ゴードンが腕を組んで口を挟む。
「だが、子連れで国境を越えるのは骨が折れるぜ。身分証明だの通行許可証だの、手続きがやたらと面倒だ」
その言葉に、俺は帝都行きを諦めた。
ロウェナを連れている以上、面倒事は極力避けたい。
俺が礼を言って引き下がろうとすると、ゴードンが言った。
「それなら、やっぱりギルドで直接情報を集めるのが一番だ。いろんな場所から旅の冒険者が来てるからな。何か聞けるかもしれん」
俺たちは『黒い短剣』の皆に礼を言い、再び冒険者ギルドの扉をくぐった。
受付嬢に事情を話すと、快く協力してくれ、最近南部から来たという一人の冒険者を紹介してくれた。
人の良さそうな、若い男だった。
「ああ、俺の故郷の方かい。いやー、正直、絶景だの珍しい遺跡だのはねえな。ただただ広い草原が広がってるだけだ。でもな、とにかく飯が美味いんだ! 特に乳製品とパンは絶品でよ」
男はそう言って地図を広げ、領都のさらに南西に広がる草原地帯を指差した。
「ああ、そういや、俺がここへ来るために出発する時、領主様が大規模な盗賊の討伐隊を出してたな。南へ向かう街道を荒らしてた連中を、根こそぎにするって話だった。もうとっくに片付いてる頃じゃねえか?」
(盗賊の心配が少ないなら、街道は安全だ。それに、飯が美味い、か。ロウェナも喜ぶだろう)
その話を聞いて、俺は南へ向かうことを決めた。
「ありがとうございます。とても参考になりました」
俺は受付嬢に声をかけ、この辺りで一番広い範囲が載っている地図を一枚買った。
羊皮紙に描かれたそれは、これまで使っていたどの地図よりも詳細で、広範囲だった。
北はノーレストのはるか先にある国境線から、南は果てしない海まで。
主要な街や村、街道、そして宿場の位置までが記されている。
ギルドのテーブルで地図を広げ、道順を確認する。
「なるほど……黒葉の森の入り口まで戻って、そこから西に進むと、大きな川沿いにも宿場があるのか」
地図を見る限り、その川沿いの宿場を経由して南下するのも面白いルートのようだ。
初めて通る道は楽しみでもある。
「よし、決めた。俺たちは南へ向かう」
ギルドを出て、俺はロウェナに向き直った。
「ロウェナ、また旅に出るぞ。今度は、美味しいものを食べに行く旅だ」
俺がそう言うと、ロウェナは目を輝かせて、力いっぱい頷いた。
彼女のその笑顔が見られるなら、どんな旅路も悪くない。
精霊のヴェール編は終了です!
次からは新しい物語になります!




