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【34000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
鍛治の街カレドヴルフ編

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間に合わせの刃と、届いた半身



 準決勝の直前。




 俺は大会運営が用意した、予備武器の保管所にいた。




 薄暗い部屋には、剣、槍、斧といった様々な武器が雑多に置かれている。




 どれも決して粗悪品ではない。



むしろ、それなりの質で作られた量産品だ。




 だが、ただ集められただけで管理は杜撰。



手入れも最低限しかされていない。




 俺は数本の剣を手に取り、軽く振っては首を横に振る作業を繰り返していた。




(……重心が悪い。柄が太すぎる。こっちは刃付けが甘い)




 前の試合が終わった後、俺はこっそりと観客席のクリス達を探し回った。




 だが、あんなに目立つ場所にいたはずの二人の姿はどこにもなく、運営側にいるはずのミネルヴァすら見当たらなかった。




 何かあったのか? それとも単に場所を変えただけか?




 いずれにせよ、もう時間がない。




 俺はため息をつき、その中では比較的マシな一本の鉄剣を選んだ。




(まあ、これなら『可もなく不可もない』か)




 俺は妥協してその剣を腰に差し、リングへと向かう通路を歩き出した。



          ◇



 準決勝の舞台となるリングには、既に相手が待っていた。




 『白銀のユリウス』




 騎士風の白銀の軽鎧に身を包み、腰には最高級の鋼で作られたレイピアを佩いている。




 優勝候補筆頭とも呼ばれる、正統派の剣士だ。




「武器のトラブルか? 不運だな」



 俺の借り物の剣を見て、ユリウスが静かに言った。嘲りはない。純粋な同情だ。




「運も実力のうちだ。始めよう」




 俺が構えると、ユリウスも頷き、レイピアを正眼に構えた。




 試合開始の合図が鳴る。




 俺は序盤から仕掛けた。




 武器に不安がある以上、長期戦は不利だ。技術で押し切る。




 ヒュンッ!




 俺の剣がユリウスの喉元を狙う。




 だが。




(……チッ)




 剣が、イメージ通りに走らない。




 止めたいところでピタリと止まらず、慣性で少し流れる。




 手首の返しに対する反応が鈍い。




 ユリウスは表情一つ変えず、その切っ先をレイピアで軽く弾いた。




「……腕が泣いているぞ」



 鋭い指摘と共に、反撃の突きが来る。




 俺はとっさに剣で受けようとするが、借り物の剣は俺の意図より僅かに遅れて動く。




 どんな弘法も、筆を選ばなければ最高の字は書けない。




 初めて握る、重心も長さも微妙に違う剣。




 俺は攻防の中で微調整を繰り返すが、相手は達人のユリウスだ。



そのコンマ数秒の思考のノイズを見逃してはくれない。




 シュッ、シュッ!




 正確無比なレイピアの連撃。




 俺は要所を守り、致命傷は避けているが、防戦を余儀なくされていた。




「そこッ!」



 ユリウスの鋭い踏み込み。




 俺は上体を逸らすが、避けきれない。




 切っ先が俺の仮面を掠めた。




 ガリッ。




 嫌な音と共に、仮面の頬の部分に白い傷が入る。




 さらに、俺の二の腕や脇腹に、浅い切り傷が増えていく。




 決して一方的にやられているわけではない。



だが、決定打を出せないまま消耗していく。



          ◇



 幾度もの攻防の後、ユリウスが間合いを測り直すように一歩引いた。




 その瞳に油断はない。




「装備を整えるのも実力のうち。……悪く思うな」



 彼が必殺の構えを取り、トドメの一撃が放たれようとした、その時だった。




「ぴえろー!!」



 観客席の最前列から、可愛らしい叫び声が響いた。




 見れば、人混みをかき分けて柵によじ登ったロウェナが、小さな体で懸命に布包みを振り回している。




「はい!」



 彼女は全身を使って、その包みをリングへと放り投げた。




 包みは放物線を描き、俺とユリウスの間の地面に、ゴトリと落ちた。




 ユリウスは、突きを放つ寸前でピタリと動きを止めていた。




 彼は落ちた包みと、俺の顔を交互に見る。




「……いいのか?」



 俺が問うと、ユリウスは剣を下げた。




「万全の相手を倒してこそ、優勝の価値がある。……拾え」



 騎士道精神というやつか。



 俺は心の中で礼を言い、借り物の剣を捨てて、包みを拾い上げた。




 布を解く。




 中から現れたのは、何の変哲もない、飾り気のない鉄剣だ。




 だが、刀身は曇りなく研ぎ澄まされ、グリップは俺の手の形に馴染むよう使い込まれている。




 まさか、これを取りに行っていたのか?




 あんな短時間で、宿まで?




 俺はそれを腰に佩き、柄頭を親指で愛おしげに撫でた。




(……ああ、帰ってきた)




 指先の感覚が、剣先まで神経のように通るのを感じる。




 腕の延長。




 失っていた半身が戻ったような、全能感。




 俺は深く息を吐き、改めて剣を抜いた。




「……待たせたな」



「行くぞ!」



 ユリウスが叫び、空気が張り詰める。




 再開された試合。




 俺が一歩踏み込んだ瞬間、ユリウスの目が驚愕に見開かれた。




 キィンッ!




「なっ……速い!?」



 剣速が跳ね上がる。




 俺の斬撃は狙い違わず相手を捉え、ユリウスのレイピアを最小限の動きで弾き返す。




 ユリウスが突く。速い。




 だが、今の俺にはその軌道が線で見える。




 俺は剣の腹でレイピアを滑らせ、火花を散らしながら距離を詰める。




 攻守が目まぐるしく入れ替わる。




 金属音が絶え間なく響き、観客たちは息をするのも忘れて見入っていた。




 ユリウスの剣技は教科書通りの美しさだ。




 対して俺の剣技は、実戦で磨き上げた泥臭い戦い方。




 手数が、速度が、徐々に加速していく。




 互いに一歩も引かない。




 俺の仮面に再び傷が入り、ユリウスの腕から鮮血が散る。




「はぁぁぁッ!」



 ユリウスが勝負を賭けた。



 渾身の踏み込みからの、目にも止まらぬ高速の突き。




 俺の心臓を貫く軌道。




 俺は、避けない。




(肉はやる)




 俺はあえて、さらに一歩前へ踏み込んだ。




 体を捻り、切っ先を左肩で受ける。




 ズブッ。




 レイピアが肩口の筋肉を貫き滑る。




 逸らした。致命傷ではない。




 焼けるような痛みが走るが、今は関係ない。




 その代償として、俺は敵の懐を手に入れた。




「――これで終わりだ」



 下段からの切り上げ。




 俺の愛剣が銀の弧を描き――ユリウスの鼻先、わずか数ミリのところでピタリと静止した。




 風圧で、ユリウスの前髪が揺れる。




 もし止めていなければ、彼の顔面は両断されていただろう。




「…………」



 ユリウスは、自分の目の前で凍りついた刃と、肩から血を流しながらも揺るがない俺の瞳を見つめた。




 そして、ゆっくりとレイピアを手放した。




 カラン、と音が響く。




「……参った。私の負けだ」



 一瞬の静寂の後、会場が爆発的な歓声に包まれた。



          ◇



 貴賓席では、勇者レオナルドが身を乗り出して拍手を送っていた。




「……見たかい? 今の踏み込み」



「はい……痛々しいです。刺されていましたよ?」



 聖女が顔をしかめるが、レオナルドの瞳は輝いていた。




「自分の体を盾にして、確実に相手の急所を捉える胆力。そして痛みの中での、あの『止め』の制御。……あの剣を持った彼は、紛れもなく『本物』だったね」



 リングの上。




 俺は愛剣を鞘に納めると、肩の傷口を軽く押さえた。




 痛むが、動かせないほどではない。




 観客席を見上げると、手すりの向こうで、クリスがへたり込んでいるのが見えた。




 全身汗だくで、肩で息をしている。相当な勢いで走ってきたのだろう。




 その横で、ロウェナが誇らしげに胸を張っている。




(……まったく。世話の焼ける弟子と、優秀な運び屋だ)




 俺は二人に小さく手を振り返した。




 ついに決勝戦。




 最高の状態になった武器と共に、俺は最後の戦いへと挑む。




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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 頑張って剣を取りに行ったクリスとロウェナも、二人の期待に応えたエドさんも、騎士道精神の元に正々堂々と全力決着を希望したユリウス氏も、みんなカッコいいと思えたお話ですね今回。 そ…
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