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【34000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
鍛治の街カレドヴルフ編

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砕けた刃と、即席の金槌



 一回戦を終え、俺が選手控え室で息をついていると、コツコツとヒールの音を響かせてミネルヴァが入ってきた。




 彼女は手元の資料を見ながら、入り口近くにいた大会運営の係員と二、三言、業務連絡のような会話を交わす。




 そして、話が終わったタイミングで、ふと部屋の奥にいる俺の方を振り返った。




 表情は変えず、ほんの一瞬だけの目配せ。




 彼女はそのまま踵を返し、部屋を出ていった。




 ……呼び出しか。




 俺は少し時間を置いてから立ち上がり、何食わぬ顔で部屋を出て、彼女の後を追った。




 一定の距離を保ちながら通路を進むと、彼女は人目のつかない部屋へと入っていった。




 俺は周囲に誰もいないことを確認し、素早くその部屋の扉を開け、中へと滑り込んだ。




「……こんな所で何だ。目立つ真似はして欲しくないんだが」



「あら、ただの業務連絡よ。ここなら安全だわ」



 ミネルヴァは悪びれもせず、懐から包みを取り出して渡してきた。軽食と水の差し入れだ。




「はい、これ食べて。……いい演技だったわよ、ピエロさん」



「茶化すな。それより、勇者の視線が痛いんだが。あいつ、俺のことを怪しんでるぞ」



 俺が不満を漏らすと、ミネルヴァはクスクスと楽しそうに笑った。




「いいじゃない。あの国民的英雄の『勇者様』が貴方に夢中なんて、光栄なことよ? 精々、正体がバレないように上手く踊りなさいな」



「他人事だと思って……」



「ふふ。期待してるわよ、優勝」



 彼女はそう言い残し、足音を忍ばせて部屋を出ていった。




 俺は溜息をつきながらサンドイッチを口に放り込み、次の試合へと気持ちを切り替えた。



          ◇



 休憩時間が終わり、二回戦へ向かうために薄暗い選手用通路を歩いていた時だった。




「――おや」



 前方から歩いてくる人影を見て、俺は仮面の奥で顔を引きつらせた。




 煌びやかな聖鎧。爽やかな金髪。




 勇者レオナルドと、その護衛である聖女だ。



どうやらトイレ休憩か何かで席を立っていたらしい。




 一本道。逃げ場はない。




 俺は極力気配を消し、壁際を歩いてすれ違おうとした。




「やあ。さっきの試合、見事だったね」



 レオナルドが足を止め、人懐っこい笑顔で声をかけてきた。




 俺は足を止めず、軽く会釈だけして通り過ぎようとする。




 だが、レオナルドはすれ違いざま、耳元で囁くように言った。



「最後の一撃、相手の減速が苦手なのを見極めてから剣を置いたね? ……君の剣術、どこで習ったんだい?」



 心臓が跳ねる。




 完全にバレている。俺の技術が。




 だが、ここで動揺しては怪しまれるだけだ。




 俺は足を止めずに、一言だけ返した。




 仮面のせいでくぐもった声が響く。




「……ただの、偶然だ」


 

 俺はそのまま早足で通路の奥へと消えた。




 背後で、「謙遜までできるのか。いいね」という勇者の楽しげな声が聞こえた気がして、俺は冷や汗を拭った。



          ◇



 そして始まった、準々決勝。




 対戦相手は『ガラハド』という男だった。




 全身を分厚いフルプレートメイルで固めた巨漢だ。




 手には巨大なタワーシールドと、武骨なウォーハンマー。まさに歩く要塞だ。




「前の試合は見せてもらったぞ! 俺はさっきの男のようにはいかんぞ。この鎧と盾の前には、小細工など通じない!」



 ガラハドが吠え、ドシドシと地面を揺らして迫ってくる。




(やりにくいな……)




 俺は安物の鉄剣を構え、距離を取ろうとする。




 だが、相手の武器はリーチの長いウォーハンマーだ。



しかも横薙ぎに振り回してくるため、攻撃範囲が広い。




 ブンッ!!




 風切り音と共に鉄塊が迫る。




 後ろに下がれば躱せるが、そうするとリング端まで追い詰められる。




 ガギィッ!




 俺は剣の腹ではなく、鎬を使ってハンマーの軌道を逸らす。




 重い。




 一撃一撃が岩のようだ。




 俺の剣は、軍の払い下げ品の数打ちだ。




 決して悪い剣ではないが、相手の質量と装甲があまりに規格外すぎる。




「ちょこまかと! 潰れろぉぉッ!」



 ガラハドが盾を構えたまま突進し、ハンマーを全力で振り下ろしてきた。




 回避スペースがない。




 受けるしかない。




 俺は剣を両手で持ち、衝撃を受け流そうと構えた。




 ハンマーと剣が激突する。




 その瞬間。




 バキンッ!!




 乾いた金属音が闘技場に響き渡った。




 俺の手の中で、剣が真ん中からへし折れた。




 回転しながら宙を舞った刃先が、虚しく地面に突き刺さる。




「あっ……!」



 観客席から悲鳴が上がる。




 ガラハドがニタリと笑った。




「ハッ! 武器が折れたか! これで終わりだ!」



 武器を失った俺に対し、ガラハドは容赦なくハンマーを振り回してくる。




 ブンッ!




 俺はバックステップで躱す。




 ブォンッ!




 続く横薙ぎも、上体を逸らして回避する。




 折れた剣の柄を握りしめ、俺は数回、その猛攻を凌いだ。




 相手の呼吸、ハンマーの振り幅、そして重心の移動。




 それらを冷静に見極める。




 ガラハドが大振りの一撃を放ち、体勢が前のめりになった瞬間。




(……ここだ)




 俺は一歩、深く踏み込んだ。




 武器がないなら、身体を使えばいい。




 振り下ろされるハンマーの内側に潜り込む。




 俺はガラハドの腕を巻き込み、彼自身の突進してくる勢いをそのまま利用して、体を回転させた。




「なっ――!?」



 視界が回る。




 てこの原理と遠心力。



単純な物理法則で、巨大な鉄の塊を背中越しに投げ飛ばした。




 ズドォォォンッ!!




 地響きと共に、ガラハドの巨体が仰向けに地面へ叩きつけられる。




 重装鎧の最大の弱点。




 それは、一度転倒すると、その重量ゆえに即座には起き上がれないことだ。




「ぐ、ぬぅ……!」



 ガラハドが必死に体を起こそうともがく。




 だが、俺はその隙を見逃さない。




 即座に相手の胴体の上に飛び乗り、馬乗りの体勢を取った。




「お休みだ」



 俺は右手に握ったままの「折れた剣の柄」を振り上げた。




 刃はない。だが、鋼鉄の柄と鍔は、立派な鈍器だ。




 ガンッ!




 俺は容赦なく、ガラハドのヘルメットを殴打した。




 ガンッ! ガンッ!




 中身を直接叩く必要はない。




 密閉された金属の鎧を外から叩けば、衝撃音は内部で増幅され、鐘のように反響する。




「あ、が……ッ」




 ガンッ!!




 最後の一撃。




 強烈な脳震盪を起こしたガラハドは、白目を剥いてぐたりと力を失った。




「勝者、仮面の剣士ぃぃぃッ!!」




 審判の宣言と共に、会場が割れんばかりの歓声に包まれた。




 武器を失ってからの、泥臭くも鮮やかな逆転劇。観客のボルテージは最高潮だ。



          ◇



 貴賓席では、勇者レオナルドが感心したように頷いていた。




「……見事だ。武器への執着がない。折れたなら折れたなりの戦い方へ、瞬時に切り替えた。あの判断力こそが強さだ」



「ええ。ですがレオ様……」



 聖女が心配そうにリングを見る。




「次の準決勝はどうするのでしょう? もう剣がありませんよ。素手で戦うつもりでしょうか」



「そうだね。借りるにしても、手に馴染むかどうか……」



 その頃。




 観客席のクリスは、エドの勝利を見届けると同時に席を蹴って立ち上がっていた。




「ロウェナちゃん、走るよ!」



「どこいくのー?」



「宿だよ! 師匠のいつもの剣を取りに行くんだ!」



 次の相手はさらに強敵になる。




 師匠は目立つことを嫌って安物を使っていたが、もうそんな余裕はない。




 予備の安物を買っている時間も、借りた武器に慣れる時間もない。




 ならば、解決策は一つ。




 師匠が普段の旅で愛用している、あの業物の剣を持ってくるしかない。




「いそげー!」



 クリスはロウェナの手を引き、人混みをかき分けて走り出した。




 次の試合が始まるまでに、絶対に戻らなければ。




 リングの上で、俺は折れた柄を見つめて眉を寄せていた。




(勝ったはいいが……武器がなくなったぞ。どうするかな)




 準決勝まであと少し。




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