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【34000pv感謝】元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜  作者: 水縒あわし
鍛治の街カレドヴルフ編

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祭りの喧騒と、三枚銅貨の仮面

少し話の区切り部分を変えてみました



 翌朝。




 宿のベッドで目を覚ました俺は、枕元に置かれた一枚の羊皮紙を見て、ズキリと痛む頭を抱えた。




『武術大会 参加登録証(控)』




 昨夜のワインの余韻と、ロウェナの上目遣いに完敗した証拠だ。




「……夢じゃなかったか」



 俺は大きく溜息をつき、天井を仰いだ。




 一度引き受けたからには、適当にやるわけにもいかない。



いや、やるならとことんやって、賞金という実利を得るべきか。




「えど! おきた!?」



 元気に飛び起きたロウェナが、俺の腹の上にダイブしてくる。




「仮面! 仮面かいにいく!」



「ぐふっ……。分かった、分かったから暴れるな」



 俺は苦笑しながら起き上がった。




 隣のベッドでは、クリスも既に身支度を整えている。




「おはようございます、師匠。……装備はどうするんですか? いつもの愛用の剣や脛当てだと、動きでバレてしまいませんか?」



「ああ。だから、まずは形から入る。買い物に行くぞ」



          ◇



 王都は『建国祭』の本番を数日後に控え、熱気と興奮に包まれていた。




 メインストリートは色とりどりの旗で飾られ、露店からは香ばしい匂いが漂っている。




 俺たちは人混みを抜け、路地裏にある古びた武具店へと入った。




「いらっしゃい」



 無愛想な店主が奥から声をかける。




 俺は壁に飾られた煌びやかな剣や、ガラスケースの中の高級品には目もくれず、入り口付近の木樽に無造作に突き刺さっているコーナーへと向かった。




 『特価品・軍払い下げ』



 俺はその中から、一本の鉄剣を引き抜いた。




 装飾も何もない、ただの鉄の棒のような剣だ。だが、手入れは最低限されている。




「……普通の剣ですね。なまくらではないですが、業物でもない」



 クリスが不思議そうに首をかしげる。




「これでいい。いわゆる『数打ち』の量産品だ」




 俺は剣の重さを確かめるように数回振った。




 重心は甘いが、使えないことはない。




「自分の剣だと、手になじみすぎてて、どうしても『俺の癖』が出る。こういう個性のない量産品の方が、正体を隠すには都合がいいんだ」



 それに、と俺はニヤリと笑った。




「どこにでもある安物の剣で、高い剣を持った連中に勝つ。……その方が『達人』っぽくて格好いいだろ?」



「……なるほど! 『弘法筆を選ばず』ですね! 深いです、師匠!」



 クリスが勝手に感動している。




 俺は銀貨数枚でその剣を購入し、店を出た。




 次は仮面だ。




 通り沿いの雑貨露店には、祭り用の仮面がずらりと並んでいる。




 狐の面、鬼の面、舞踏会用の洒落たドミノマスク。




「ロウェナ、好きなのを選んでいいぞ」



「んー……これ!」



 ロウェナが迷わず手に取ったのは、安っぽい紙粘土で作られた、ひょうきんな顔をした道化の仮面だった。




 赤くて丸い鼻に、裂けたような笑顔。



どこか間の抜けた表情だ。




「……おい、本当にそれでいいのか? もっと強そうな鬼の面とかあるぞ」



「ううん、これがいい! これ、おもしろい顔!」



 ロウェナはケラケラと笑って仮面を自分の顔に当てた。




 値段は銅貨三枚。子供のお小遣いでも買える代物だ。




「……センス独特だな。ま、顔が隠れりゃなんでもいいか」



 俺は苦笑しながら代金を払った。




 最強の剣士がつけるには、あまりにもふざけた仮面。だが、それもまた一興か。



          ◇



 翌日。




 俺たちは広場の噴水前で、ある人物と待ち合わせをしていた。




「お待たせ。遅かったかしら?」



 現れたのは、いつもの堅苦しいスーツではなく、柔らかな色合いのワンピースにカーディガンを羽織ったミネルヴァだった。




 眼鏡も仕事用の銀縁ではなく、少しカジュアルな赤縁のものに変えている。




「……雰囲気変わるな」



「今日は非番だもの。私の『投資先』がちゃんと仕上がってるか、確認させてもらうわ」



 ミネルヴァは悪戯っぽく微笑み、自然な動作で俺の隣に並んだ。




「さ、行きましょ。観光客には知られていない、美味しい屋台を知ってるの」



 彼女の案内で、俺たちは王都の穴場スポットを巡った。




 路地裏の名店で「揚げピザ」を頬張り、氷で冷やした「氷菓」に舌鼓を打つ。



「おいしい!」



 ロウェナが口の周りをクリームだらけにして笑うと、ミネルヴァがハンカチで優しく拭ってやる。




 その光景は、傍から見れば休日の家族連れのようだったかもしれない。




「今年の大会、出場者は過去最多よ」



 歩きながら、ミネルヴァが小声で情報をくれた。



「でも、本命は騎士団のエリートか、北から来た有名な傭兵あたりね。賭けの倍率もその二強に集中してるわ」



「俺はダークホースってわけだ」



「いいえ。あなたは場を荒らす『ジョーカー』よ。……期待してるわ、仮面の剣士様」



 彼女は楽しそうに、氷菓の匙を舐めた。



          ◇



 そして、大会前日。




 最後の買い出しに広場を通ると、特設ステージに人だかりができていた。




「我こそは伝説の『仮面の剣士』である! 真の力を見よ!」



 ステージの上で、派手な衣装と仮面をつけた男が演説していた。




 手には装飾過多な剣を持ち、大げさな動作で素振りを披露している。




「あ! えどのニセモノ!」



 ロウェナが指差して叫ぶ。




「しっ、声が大きい」



 俺は慌ててロウェナの口を塞いだ。




「……あんなのが今年は五人も登録してるわ。頭が痛い」



 同行していたミネルヴァが、こめかみを押さえて溜息をつく。




 最近のブームに便乗した偽物たちだ。




 その時だった。




 ステージ上の偽物が、調子に乗って剣を振り回しすぎた。




「はぁぁぁっ! ……あ!?」



 手汗で滑ったのか、剣がすっぽ抜け、観客の方へと飛んでいく。




 その軌道の先には、逃げ遅れた子供がいた。




「危ない!」



 誰かが叫ぶ。




 だが、俺は声を出さなかった。




 代わりに、足元の小石を拾い、人混みの影から指で弾いた。




 ――デコピンの要領で、神速の一撃。




 カィンッ!




 乾いた音が響く。




 空中で小石が剣の柄にヒットし、その軌道を大きく逸らした。




 ドスッ。




 剣は誰にも当たることなく、誰もいない地面に突き刺さった。




「……へ?」



 偽物が間抜けな声を出して固まっている。



観客たちも、何が起きたのか分からずポカンとしている。




「……あぶなっかしいな。行くぞ」



 俺は何食わぬ顔で踵を返した。




 誰も俺がやったとは気づいていない。




 ただ一人、隣を歩くミネルヴァだけが、ニヤリと口角を上げていたのを除いて。



          ◇



 その夜。




 宿の部屋で、俺は買ってきた「数打ちの剣」の手入れをしていた。




 安物の鉄だが、丁寧に油を引き、布で磨き上げることで、鈍い輝きを放ち始めている。




 その横には、ロウェナが選んだ三枚銅貨の道化の仮面。




「……」



 俺は剣を置き、仮面を手に取った。



 そして、顔に当てる。




 スッ……。




 その瞬間、部屋の空気が変わった。




 いつもの「昼行灯なおっさん」の様な雰囲気は消え失せ、冷ややかで底知れない、研ぎ澄まされた刃のような気配が立ち上る。




 ふざけた道化の笑顔が、逆に不気味なほどの威圧感を放っていた。




「……すごい。別人のようです」



 クリスが息を呑む。




 窓の外では、前夜祭を祝う花火が上がり、夜空を彩っている。




「えど、がんばれー!」



 ロウェナがベッドの上で飛び跳ねる。




「ああ。やるからには優勝賞品は頂く。……明日は特等席で見てな」



 俺は仮面の奥で、静かに笑った。




 準備は整った。




 いよいよ明日、波乱の武術大会が開幕する。



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