カフェで、ルクレステと話す
「それで、あれは?」
「そう、不機嫌になるなよ」
ルクレステの不機嫌そうな顔を見ながら、俺は宥めるように言った。
……さて、時間軸は現在に戻って俺とルクレステはカフェでのんびりしている。甘いものを食べながら俺はすっかり先ほど絡んできた少女のことなどどうでもいいなと思っていた。しかしルクレステはそうではないらしい。
「……しかし、あいつ、ウェイに訳の分からないことを言っていたんだろう。俺の親友にあんな真似をする奴がまだ居るとは」
「ほらほら、落ち着け。これでも食え」
俺はそう言いながら、パンケーキをルクレステの口に突っ込む。大人しくもぐもぐと食べるルクレステ。こうやって食べさせると割と大人しくなるんだよなぁ。
あと俺の言うことなら割とルクレステは聞くしなぁ。それでルクレステを利用するために俺に近づいてくる連中も居ないわけではない。
「これ、美味しいな」
「このカフェ、一押しの商品らしいからな。気に入ったなら良かった。それでさっきの女の子についてはひとまず俺の方で調べるからルクレステは勝手に動くなよ?」
「……分かった。ただ不審な者には近づかないようにした方がいい。何かあるとレーリラも心配をするぞ。もちろん、俺も」
「うん。分かっている」
俺に何かあると暴走しそうな人間は複数人いるのである。
一人は目の前にいるルクレステ。ルクレステにとって初めての友人である俺への感情はとてつもなく重い。俺の行く場所には一緒に行きたがるし、国の機密事項の場所にも連れて行こうとするし……。うん、ルクレステが望むから俺は卒業後も側近として世話をやくことにはなってるしなぁ。
それでもう一人はレーリラという名の侯爵令嬢である。彼女はなんと俺の婚約者だ。侯爵令嬢と婚約を結ぶことになったのはルクレステの経由である。ただの伯爵家の次男である俺が侯爵令嬢と婚約など普通ならば結ぶことなど出来ない。ただ縁あって結ぶことになって、それで有難いことに俺のことを大切にしてくれている。そういうわけで俺に何かあったら物凄く怒りそうだ。
俺は、ちょっとぐらい自分に何かあったとしても問題はないと思っているのだけど周りが大変なことになるので十分に気をつけようとは思っている。
あの少女、確かなんて言ってたっけ?
『煌めき魔法学園』の世界がどうのこうの言っていったっけ?
転生者云々を口にしていたし、あの少女も転生者ってことだよな。それでこの世界を知っている風だったってことは……うーん? 前世で読んだことがある転生物みたいな感じで知っている世界に転生したみたいな感じか?
『煌めき魔法学園』って結局なんなんだろう。なんかの作品名か?
そのあたりはあの子自身に聞いてみないと分からないなと思う。ただ冷静に話してくれるかどうかが分からないけどな。その場合だと、ちょっと人を借りて本人から聞くではなく、情報収集をするしかなくなるか。
「ルクレステ。学園に入学してから近づいてくる令嬢も多いだろうけれどヘマはしないようにな? 学生の間なら少しぐらい失敗してもなんとかなるだろうけれど……俺はルクレステの王太子としての評判に傷がつくのは嫌だからな」
俺もなんだかんだルクレステのことはかなり大切に思っていると、自分でも自覚している。
ルクレステは王太子として、素晴らしい評判を持っている。それこそ性格は少し唯我独尊感はあるけれど、それ以外は完璧な王太子だとそんな風に言われているんだよな。
俺はそのことを誇らしく思っている。
というか、大事な親友が周りからよく思われているのって気分がよくなるよなぁ。
俺はルクレステの評判が落ちるような騒動が起こるのも嫌だ。あの俺に絡んできた少女がもうちょっと落ち着いてくれたらいいけれど……そうじゃないなら何をしでかすか分からないからな。
そのせいでルクレステの評判に傷がつくのって嫌すぎるし。うん、だから俺がちゃんと周りと協力をしてなんとかしないと。
「当然だ。婚約者がいるのに他の令嬢と深く関わるような愚かな真似はしない」
「うんうん。それがいい」
世の中には学生時代ぐらい少し遊んでもいいと羽目を外す子息や令嬢も居なくはない。
王族貴族の婚約関係なんて政略的な意味合いが多い。それこそ冷めた関係というのは幾らでもある。とはいえ、仲良く出来るならその方がいいよなーっていうのは俺の個人的な感想。
幼い頃のルクレステは、結婚相手なんてどうでもいいと思ってそうだった。しかし俺が散々、「恋愛結婚の方がいいぞー」と自分に婚約者も居ないくせに言い続け、恋愛小説とかも読ませたりしたらすっかり婚約者を大切にするようになった。
それは本当に良いことだよなぁ。
ルクレステは婚約者とかなり仲が良いので、二人の仲が良い様子を見ると俺は嬉しくなるのである。
たまにダブルデートとかもしている。
婚約者同士もかなり仲が良いしな。俺は婚約者にも親友にも恵まれているなぁと改めて嬉しい気持ちでいっぱいになるのだった。