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俺とルクレステが出会った日のこと ④

「ウェイ」



 王太子殿下――ルクレステが俺のことを愛称で呼ぶ。




 なぜこんな状況になったのかと言えば、宰相閣下の言葉で王城に滞在することになった俺はすっかりルクレステと仲良くなった。





 ……王城の状況、なかなか酷いものだったのだ。俺がルクレステと一緒に過ごして、子供目線だからこそ見えたものが沢山あったのだ。

 ルクレステがそれだけ厳しい教育を受けていたのは、様々な理由が重なったからである。





 一つ目は側室が王妃の息子であり王太子であるルクレステに複雑な感情を抱いていたこと。表面上は優しくしていても、ルクレステを家族という枠組みから排除したり、自分の息子に王位をつがせたいからと暗躍していた。陛下がルクレステのことを気にしていることも気に食わなかったらしい。だからルクレステのことを思っている風にしながらも緩やかに「王太子殿下は勉学に励みたいようですわ」などといって、家族の交流の場に呼ばなかったりしていたそうだ。




 ……大人なのに子供をそんな風に虐めるのはどうかと思う。というか、引く。

 側室には陛下から注意が行って、罰は受けていた。とはいえ、子供達から母親を奪うのもということで側室の地位はそのままだが。





 あとは陛下はルクレステに対して当然悪感情は抱いておらず、寧ろ大切に思っていたが側室や周りの策略により近づかない状況になっていた。だからこそ陛下がルクレステを疎んでいるという風に印象操作がされていたらしい。




 それで勝手に陛下のためになどといってルクレステに酷い扱いもしていたようだ。いや、本当に王位をつぐ予定の存在に対してそんなことをやらかすだけでもおかしいだろう。

 ただ周りがやっているからそういう態度をしても問題ない、といった心理になる人はそれなりに多いのだ。




 その状況を俺は一生懸命改善させた。だって乗りかかった船だし。俺が口出ししたからこそこういう状況になっているわけだから。

 ルクレステは俺のことをウェイと呼ぶようになったし、俺も呼び捨てにすようになった。正直王族相手にいいのか? と思ったけれど呼んでほしいと言われたので結局公の場以外では普通に友人として接することになった。





「今日は何をするんだ?」

「俺は宰相閣下のところで、色々学んで来ようと思っているけれど」

「その後は?」

「その後は騎士団に顔を出そうと思っているけれど」

「……お前、最近忙しそうだな? もっと俺に構え」





 そんなことを言われて、本当にルクレステはなんというか俺に懐いたよなぁと思う。うん、そっけない態度だった犬が懐いたみたいなそんな感覚。




「そんなこと言ってもちゃんと遊ぶ日は決めてるだろ。折角王城に居るから俺は将来のためにも色々学びたいんだよ」




 俺はそう言いながら不満そうなルクレステを宥める。




 今のルクレステの教育は以前と異なりちゃんと休養日を作ってある。遊ぶ日を作って、ルクレステがやったことない遊びを山ほど俺は教えている。単純にこうやって一緒に遊ぶのは楽しい。

 それにその費用も王家が出してくれるので、実家の領地で遊んでいる時よりも良いものを使わせてもらえるしなぁ。良いこと尽くめである。




 ずっとルクレステと遊んでばかり過ごしているのもあれなので、俺は宰相閣下の元で学んだり、騎士団や魔術師団のところにいって戦い方を学んだり、色々とやっている。あとはルクレステの弟と妹と交友したり。なぜか俺、陛下とルクレステが過ごしている中に俺、放り込まれるんだよなぁ。

 今まで二人で話したりしなかったから気まずいとかで俺も同席することになった。あとルクレステが「ウェイも一緒に居ろ」といったからである。俺と一緒がいいらしい。




「分かった。……夜に話に行く」

「はいはい。いいぞ。俺は途中で寝るかもだけどな」




 ルクレステは案外寂しがり屋というか……友人が出来るとこうも執着するタイプなんだなというのは最初驚いたものである。




 俺がやりたいことがあるというと納得したものの、夜は俺の部屋におしゃべりしに来るらしい。

 ちなみに俺は今、王城内の空き部屋の一室を与えられている。ルクレステが「近くがいい」と我儘を言った結果、王太子であるルクレステから近い部屋で過ごさせられている。




 こういう暮らしも期間限定だろうし、楽しむかと俺は楽しんで過ごしていた。





 なのだけど……、



「帰る? 嫌だぞ。俺はウェイが一緒の方がいい」



 と、そんな風にルクレステが悲しそうにしていた。




 俺もルクレステのことは友人だと思っているし、俺が一緒がいいという。それに陛下や宰相閣下も俺が居る方がルクレステが喜ぶからと、出来れば留まって欲しいと言われた。

 普段は堂々としているルクレステから縋るような目で見られると、王城にいた方が将来にもつながるしいいかぁとそういう気持ちになった。あと俺がルクレステと仲良くなることで、俺の家が王家から覚えめでたくなるだろうという打算も当然あった。




 まぁ、家族には会いたいから時々領地に帰ったり、家族を王都に呼んだりはしたけれど。俺が領地に行く際はルクレステがついてきたから家族は萎縮していたが。



 ――それから俺はずっと王城で過ごしたのであった。



 それから八年、ルクレステの側近候補として学園に一緒に通っているのである。


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