俺とルクレステが出会った日のこと ②
なんというか、凄く子供らしくなかった。
俺のように前世の記憶があるならともかく、そうじゃないのにこれだというのは何だか違和感。笑っているのに笑ってないとか。気になる部分は沢山あった。
王太子殿下がそうなのは、元々の性格なのかもしれない。それでいて俺が田舎の伯爵家の出だからこそこんなことを気にしているだけなのかもしれない。……王族や高位貴族という立場ならばこういう子供が当たり前だと、もしかしたら周りには笑われてしまうかもしれない。
それは頭では理解出来たけれど、俺は子供がこういう表情をしているのも嫌だとそんな風に思った。
もちろん、しがない伯爵家の息子でしかない俺が王太子殿下にこんな感情を抱いているだけでも烏滸がましいというか、恐れ多いことなのかもしれないけれど。
それでも王太子殿下のことが気になったのは確かだった。
陛下と父上から、子供同士で過ごすように言われる。
国王陛下と会ったのは初めてだけれども、物凄い目の圧が強くて……見つめられると足がすくみそうにはなった。
けれども淡々としていても陛下の声には少なからずの愛情が見え隠れしているようには見えた。それは俺が前世の記憶があるからこそ感じたことでしかないから、実際はどうかは分からないけれど。
「王太子殿下は普段は何をして過ごされているのですか?」
「勉強をしている」
「王太子殿下の噂は私の住んでいる伯爵領にも届いております」
こうやって堅苦しい口調で話すのは大分、疲れてしまうものである。
俺はもっと軽い口調で、何も気にせずに話す方が好きだ。そういう気質であるからこそ、たまにならいいけれど常に王太子殿下のような立場のある方と話すとなると普通に無理が出る気がしてならない。
今回は父上に迷惑をかけるわけにはいかないし、俺も伯爵子息だからこそ王太子殿下とこうやって畏まって話しているけれど疲れるなぁというそう言う気分である。
王太子殿下も特に楽しいとか思っていないのではないか? と思った。
それにしても時折浮かべる笑みも……全て作り物のよう。
子供はもっと無邪気に笑うものなんじゃないか? なんて思う。
いや、だってさ、幾ら立場のある家に産まれたとはいえ、いずれ国王の座を継ぐことが決まっていたとしても子供らしくしてはいけないなんて理由は一つもないはずなのだ。
寧ろ誰のことも大切にすることなく、まともな交友関係を築けずに大人になるのってなかなか危うい気がする。例えばこう……ハニートラップとかにかかりやすくなるとか、そういう危険性もあるだろうし。
そもそもの話、国民のことを統治しなければならない王族が当たり前の幸せを知らないというのも微妙な気持ちになるものだしなぁ。
俺が単純にそういう国王よりも、もっと人間味のある国王の方がいいなと思ったりする。
その方が貴族としても心配じゃないし。
俺も王太子殿下も子供だから、ちょっとやらかしたところで問題はないはず。どうせ王都に来るのなんて今回が終えればほぼないだろうし、うん、ちょっとやれるだけやってみるか。
そんな気持ちになったので、全く表情一つ変えずに淡々としている王太子殿下に沢山話しかけた。
なんでもいいから王太子殿下がこちらに何かしらの感情を抱いてくれればそれだけでもいいことだとそんな風に俺は少なくとも思っているから。
俺の方が王太子殿下の倍ぐらい喋っている。
……こうやって沢山話をすると、喉が渇いてくる。王城に仕える侍女が入れてくれた紅茶を飲みながら、ただ話す。それにしても流石王族が飲んでいる紅茶だ。滅茶苦茶美味しい。
王都だとこういう美味しいものが沢山溢れているんだろうか? やっぱり都会だとこういう良いものが集まるだろうしなぁ。
領地に帰る際には沢山お土産を買って帰ろう。
しばらくはこの地に来ることはないし、そういうのは重要だよなぁ。
ただこうして王都でずっと過ごしている王太子殿下に俺はひたすら王都の事も聞いたのだが……この王太子殿下、全然そう言うのも知らない。
というか王族として必要なことだけを詰め込まれているというか。
ただそれだけのようにしか育てられていないというか……、王族として学んですごしているだけというか。
それだと何が楽しいんだろうって分からない。
子供は遊ぶものだ。すくすくと育つのが仕事だと思う。
こんな風に娯楽の一つも知らない……みたいな状況に俺は危機感を覚えた。
だってそういう楽しいを一つも分からない王様なんて、後々問題じゃないか?
そういうわけで俺はチェスを一緒に遊んでみたり、俺の好きなものに関して沢山語ったり――。
そういうことで少しでも王太子殿下が何かに興味を抱けばいいと思ったから。
だけれども……根幹的に、王太子殿下はそういうことを楽しんではいけないという思考を思い込まされていたらしい。
それに気づいた俺は……、
「宰相閣下、少しよろしいですか?」
王太子殿下を連れて、その教育を任されているという宰相の元へと向かった。