俺とルクレステが出会った日のこと ①
そう、俺とルクレステが出会ったのはおよそ八年前、まだ子供だった俺は親に連れられて王城へと顔を出していた。
田舎の伯爵でしかない父上だってあまり王城に顔を出すことなどない。そんな父上が珍しく登城するとのことで滅多にない機会だからと俺のことも連れて行ってくれたのだ。
俺は前世の記憶を持っているというのもあって、それまで問題を起こしたりしていなかったのも王城に連れて行ってくれた理由の一つだろう。
今世の俺には兄と姉が居る。伯爵家の次男という立場で、家を継ぐことなども出来ない。そのような立場の貴族子息は自分の手で将来を切り開くか、兄弟のサポートをするか、どこかに婿に入るかなどの選択肢が求められる。
父上が俺をこうして王城へと連れ出したのは、何かしら将来に繋がるきっかけが手に入ればいいと思ったからというのもあるかもしれない。
そういう風に俺の将来のことを考えてくれている父上のことが俺はとても好きだと思っていた。
俺が爵位を継ぐ立場ではないから若干放っておかれることは当然あった。跡取りである兄上のことを優先することが当然だろうし、俺はそれでも特に兄上に悪感情はなかった。
それは俺に前世の記憶があったからだとは思う。そうじゃなかったら俺は……もっと擦れた人間になっていたかもしれない。
「父上、王城って凄い!」
「そうだな。こんなに大きな建物他にないもんな」
「うん」
俺の目が輝いていたのは、こういう建物にやってくることは前世も含めてなかったから。
国によってはこう、貴族の住居がお城だったりするんだろうけれど生憎俺の家はただの屋敷である。仮にも伯爵位を持っているから、前世の家よりもずっと大きな屋敷に住んでいるけどな。
俺は自分の家だというのに屋敷を探索するのはとても楽しい。
まだまだ見れてない箇所もあるから、今後も探索するつもりだ。
それでだ。前世で海外旅行なども行ったことはなかったので、こういう西洋風の王城なんて初めてなのである。
だからこそ見ているだけでワクワクして、父上にほほえましい目で見られた。
そういうのは少し恥ずかしくはなるけれど、父上が笑っていることは俺は嬉しいと思った。
「王太子殿下にも挨拶が出来そうならしよう」
「王太子殿下って、私と同じ年なんだよね?」
王太子殿下の情報はちゃんと知っている。伯爵家を継がないにしても今後、俺は貴族として生きていく可能性もある。どこかに婿に行ったりな。
だからちゃんと勉強もしているのだ。学ばないよりは学んでいた方がずっと将来のためになるだろうし。
周りを歩く文官達の姿もあるので、念のためちゃんと一人称を私にしている。素は俺だけど。
「そうだな。王太子殿下はとても素晴らしい方だと聞いている。勉学も魔法もとても優秀らしい」
「へぇー」
前世の物語の中でたまに見かけるような完璧王太子みたいな感じなのだろうか? などと俺は呑気に考えた。
俺は前世で小説や漫画を読んだり、アニメを見たりするのが大変好きだった記憶がある。だからなんか王太子殿下とかいう単語聞くと勝手なイメージ抱いてしまいそうになる。
「亡くなられた王妃様も、王太子殿下が立派に成長なされていて安心なさっていることだろう」
父上の言葉を聞きながら、俺は王太子殿下について知っている情報を思い返してみる。
俺と同じ年で、田舎にまで噂が広まるほど綺麗な顔立ちをしているらしい。尤もこれに関しては誇張が入っているかもしれないから、実際に見てみないと分からない。勉学や魔法も優秀だと聞いている。あとは剣術もかな?
俺は同じ年だからたまに家庭教師から比べられたり、「王太子殿下はここまで出来るのです」などと言われたりする。俺のやる気を出させるためだろうけれど、人によってはそういうことを言われたら逆効果だったりする気がする。俺は前世の記憶ある影響かあんまり気にしていないけれど。
あとは母親である王妃様は、王太子殿下が幼いころに亡くなったらしい。どうやら病弱だったようで、王太子殿下を産んだ後に体調を崩されていたそうだ。その後、新しい王妃様は居ない。側室は居るから、王太子殿下の弟と妹は産まれているらしいけれど。
俺は今世の母上のことがとても好きなので、もし母上が亡くなったら……と思うと考えただけで悲しい。前世の記憶があれど、感情は身体に引っ張られ気味だし、記憶はあるだけって感じなのでこういう風な時は度々ある。
王太子殿下がどういう方なのかは分からないけれど、もしご挨拶できそうならば仲良くなれたら嬉しい。
……とはいっても今回挨拶した後、その後ずっと会う機会がない可能性の方が高いだろうけれど。俺が王都に来ることなんて今回が初めてだったし。
でも良い感情を抱いてもらえたら後々貴族の子息子女が通う学園に通う際に交友を持てたりするかもしれない、などと一瞬考えたけどまぁ、そんなことはないだろうなと思っていた方がいいな。
そんなことをつらつら考えながら俺は父上に連れられて、陛下と王太子殿下と挨拶をすることになった。
「王太子のルクレステだ。よろしく」
――そして初めて目にした王太子殿下は、にこやかに笑っているのにどこか目が笑っていないような、違和感が凄くあった。