ルクレステに馬車の中で情報共有
「ウェイと一緒? あんな馬鹿女が? 排除するか?」
「ちょっと、待て」
放課後、俺はルクレステと一緒に馬車に乗っている。ちなみに俺は寮の部屋もあるけれど、ルクレステが借りている屋敷の一室も使わせてもらっているので両方を使っていたりする。今日はこのままルクレステの屋敷に向かっていた。
ルクレステは極端な性格をしていたりする。その思いっきりの良さを俺は好ましく思っているし、為政者としてそれは良い一面だとは思っている。ただ適度に調整はしておかないと、ルクレステの評判が下がったり、要らぬ敵を作ることにはなってしまうんだよな。
俺はそれは避けたい。
我が道を行くルクレステも、らしいなと思うし、そういう彼を見続けるのは楽しいとは思っている。とはいえ、敵は多くない方がいい。
「お前に迷惑をかけたのだから、排除されても文句は言えないだろう。それにあんなのがウェイと一緒だと思われるのは嫌だ」
「はいはい。ルクレステが俺のことを思ってそう口にしていることは分かるけれど、まだそこまでするほどやらかしてないだろう? それに俺は対話することでどうにか出来るならその方がいいと思うんだ。まだ俺達は学生だしな」
まだ貴族家当主とか、夫人とか、そういう責任がある立場についているわけでもない。学生のうちのやらかしは比較的大目に見られるものだ。だからこそスコッティ嬢に関してはまだ対話の段階だと言える。
初動が遅れて面倒な事態になることも当然あるから、この状態が正しいかどうかは分からないけれど出来る限りのことはするつもりだ。
「推測だけど、あの男爵令嬢はこの世界を物語か何かだと思ってそうなんだ」
「なんだ、それ」
「んーっとなんていうか、俺の前世で生きていた世界だとそう言う話大量にあったんだよ。流行っていたというか……」
「へぇー。それであの馬鹿女が現実と物語を混同して、俺の親友に迷惑をかけているということか?」
「そんな怖い顔をするな。その通りではあるんだけど、今はちょっと現実が見えていないだけかもしれないだろう? 一時的に物語の世界に転生してしまったって好き勝手しているだけともいえるし」
「ウェイは優しいな。頭がおかしい女なんて幽閉でもなんでもすればいいのに」
……ルクレステはさっさと幽閉でもさせたいんだろうな。俺の頭を悩ませている存在なんて、邪魔だと思ってそうだし。
俺はルクレステの側近候補だから、ルクレステの手を煩わせる存在を俺の手で排除するのが仕事ではあるのだけれども……ルクレステの方が積極的に俺が平穏に過ごせるように動いていたりもするんだよな。俺は子供でもないし、自分でなんでも対応出来るんだが。
「あまりにも続くならそういう対応は必要だな。幽閉先なども調べておく。でもまだ駄目だぞ? 困った人間ではあるけれど、聞き出したい情報もあるしな」
俺は全く前世で乙女ゲーム的なものには触れたことはないけれど、将来に役立つ情報などももしかしたら持っているかもしれないんだよな。
あと案外ストーリーが重いゲームもああいうゲームの中にはあるだろうし……。
もしスコッティ嬢が知っている情報で、国やルクレステの危機を救えるものがあるなら先に聞き出しておいた方がいい。
「聞き出したい情報?」
「あの男爵令嬢が此処を物語の世界だと思い込んでいるなら、他国の情報とか、この国でこれから起こることとかもしかしたら知っているかもしれないんだよ。あと……あの令嬢が知っているものと現実は異なっているだろうけれど、ルクレステの過去とかもおそらく知っているんじゃないかな……っては思うけれど」
俺に文句ばかり口にしていたし、俺のことはそのゲームではおそらく描かれていないだろう。ただルクレステのことは攻略って言っていたから基本情報とかおそらく知られている。
ルクレステがどういう生い立ちかとか、そういうのも全部。
俺の言葉を聞いたルクレステは物凄く嫌そうな顔をしていた。自分のことを他人に話したりあんまりしないタイプだし、知らないうちに自分の情報を持たれていることは嫌なんだろうな。
「ルクレステだけじゃなくて他の人の情報も多分持っているだろうし、ちゃんと対応するから今は大人しくしていてくれよ」
「……分かった。ウェイの情報も知られているのか?」
「いや、俺のは多分知らない」
そう言ったら何だか不満そうな顔をされた。……なんだかこれ、俺の情報を向こうが掴んでいても嫌だけど、興味がなさそうなのも嫌みたいな感情か?
「そうか。……お前が自分で対応するというなら放っておくが、何かあったら俺も動く」
「了解」
ルクレステの手を煩わせないように、ちゃんとしないとなぁ。
言ってしまえば現実とゲームを混同している状態っぽいから、現実だって分からせるのが一番なんだけれど。
どういう行動をすべきか考えないと。