雨の日。
2014年になんとなく書いた短編がでてきたので供養。
「ナオ」
今日も彼が来た。
雨の日はいつもあたしが家にいるのを知って。
雨の日は嫌いだったけど、今はそうでもない。
「結局僕らは救われないんだよなぁ」
そんなことを呟きながらあたしを抱く腕はちょっと冷たかった。
雨はまだ止みそうにないけど、彼はいつも時間に正確。
「時間だ。また雨の日にね、ナオ。」
ひとりの夜はちょっとだけ散歩する。
雨の空気がひんやりして、体中がしっとり湿って、快感で不快感。
曇天を見上げて思う、彼はひとりで眠ってるのかな、それとも…なんて。
晴れた日はいつもの道を歩く。
「おや、ナオちゃん。来たのかい?いつもの出すから待っておいで」
おばちゃんの笑顔に甘えながらぼんやりと通りを見遣った。
彼。
晴れた日に彼を見るのは久しぶりだ。
一緒に歩いているのは家族だろうか。顔が険しい。
何かを叫んで彼が走り出した。
あたしには関係無い。
あたしが彼といられるのは雨の日だけ。
彼に抱かれるのは雨の日だけ。
「ナオ」
その日の夜、晴れているのに珍しく彼が来た。
空には綺麗な満月、月明かりに照らされた彼の顔が少し腫れて見えた。
「少し散歩しようか」
どちらからともなく歩く。
いつもと同じ散歩道、彼の歩く速度に合わせて。
晴れた夜に彼と一緒にいる。
その事実に少しときめきながらも少し俯いた彼の様子が気にかかる。
「このまま、ナオと一緒に暮らそうかなぁ」
少しはにかみながら彼が言った。
そんなつもりなんて無いくせに、抱きしめられた胸をほどけなかった。
「今日は帰るよ。また雨の日にね、ナオ。」
去っていく彼の後ろ姿を見えなくなるまで見送ってから家路についた。
それからしばらく晴れの日が続いた。
なんとなく外にでる気になれない。
もう3日?4日?なにも食べていないことに気づいていつものおばちゃんのところへ行こうとした。
そのとき。
「ナオ!!」
こんな綺麗な晴天の白昼に。
空腹のあまり夢でも見てるんだろうか。
「ナオ、やっと、やっとナオをうちに迎えることが出来るんだよ。やっと両親に許してもらえたんだよ!」
彼があたしの体を抱き上げる。
そのまま彼の両親の車に迎え入れられた。
「ナオ、僕のナオ。これからはずっと一緒だよ。」
そう言ってあたしに頬ずりする彼の胸で、あたしは初めてゴロゴロと喉を鳴らしてみせた