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敗北の朝

 捕虜となった私は、ピサロたちに伴われ、彼らの宿舎へと引き立てられた。日はすでに沈み、闇があたりを覆っていた。小さな部屋にはスペイン人たちと、捕虜となった私の部下たちがひしめき、緊張感が漂っていた。


 部屋の隅にはピサロを含めた十数人のスペイン人がいた。副官のエルナンド・デ・ソトやビセンテ・デ・バルベルデの神父もその場にいた。対する我々は、数名の忠実な従者のみであった。首長や将軍の多くはすでに殺されるか、捕らえられていた。


 死がいつ訪れるのか、その恐怖がまとわりついた。私は部屋の隅に座し、スペイン人たちの様子をじっと観察した。彼らにとって、私の命は取るに足らぬものなのか、それともまだ利用価値があるのか。その答えは見えず、ただ息を潜めていた。


 スペイン人たちは甲冑を脱ぎ、血染めの服を捨て、新たに略奪した衣服に着替えていた。しかし、彼らの体には血の臭いが染みついていた。外には兵士たちの無惨な遺体が放置され、鼻をつく死臭が風に乗って部屋へと流れ込んできた。


 生き残った従者たちは、乱れた私の装いを整え、髪に房飾りを新たに付けて王としての威厳を保とうと努めた。


「この度の勝利は神の御業である。あなたたちは偶像を崇拝し、キリスト教を信じようとしなかった。だからこそ、我々は少数でありながらも、あなたたちの大軍を打ち破ることができたのだ。」


 ピサロは髭を蓄えた精悍な顔つきをしており、低く落ち着いた声には妙な威圧感があった。彼は勝者としての余裕を見せつけた。


 ピサロの傍らには見慣れない一人の若い先住民の男が控えていた。彼は緊張した面持ちで互いの言葉を翻訳していた。タランブールという名のこの若者は、以前の通訳とは異なり、流暢なケチュア語を操った。後にこの男は洗礼を受け、フェリペと呼ばれるようになる。そして、私の運命を大きく変えることになるのだが、その時はまだ知る由もなかった。


「わが軍は貴殿らの軍のように優れた武器を有していなかった。私の将軍たちは貴殿らの武器や馬の強さを見くびった。そのために我々は敗北したのだ」


 暗い部屋の中で、私の声が小さく響いた。通訳の若い男は私の言葉を滑らかに翻訳する。


「そもそも、我々が砲や馬を持つのは、神に選ばれているからにほかならない。あなたたちがそれらを持たないのは怪しい呪術に耽り、神から見捨てられたためである」


 ピサロは自信満々に言い放った。今考えれば滑稽な理屈だが、圧倒的な勝利がそれを正しい答えに変えていた。


 その夜、私は彼らの宿舎で眠ることになり、土の床にイグサの敷物が引かれ、そこが私の寝床となった。


 従者たちは懸命に床を掃除し、私の身体が汚れぬよう尽くしてくれたが、土の感触は冷たく、寝心地は悪かった。頬に伝わる冷気を感じながら、涙がこぼれた。松明の炎が揺れる中、スペイン人の見張りが私をじっと見下ろしていた。


 朝が来て、カハマルカの地に太陽が昇った。空は澄み渡り、雲一つなかった。


 私はスペイン人たちに連れられ、広場へ出た。彼らは私に指揮権を行使させ、兵士たちに武器を捨てさせ、放置された死体を片付けるよう命じた。


 太陽の光が無数の死体を照らし出した。昨日とは異なり、戦の爪痕が克明に目に飛び込んできた。地面は文字通り血で染まり、死体が折り重なり、土の表面すら見えなかった。朝露が凝結し、死者の顔には涙を浮かべたような輝きがあった。


 数羽のコンドルが死体の肉をついばんでいた。無垢な表情をした彼らは、時折人間の気配に気づくと顔を向けたが、まるで恐れることなく、血に濡れた嘴を動かし続けた。


 死臭には、いつの間にか慣れていた。私は残った将軍たちを集め、死体を速やかに運び出すよう命じた。彼らは落胆した表情を浮かべながらも、静かに承諾した。


 その後、私は広場に面した建物の中に閉じ込められることとなった。その建物は、かつてスペイン人たちが待ち伏せの際に身を潜めていた場所で、中には何もなく、ただ広々とした空間が広がっていた。


 汚れた壁や殺風景な光景を目にして、私はひどい屈辱感を感じた。しかし、タワンティンスーユの兵士たちを動かすには私の指揮が必要不可欠であったため、スペイン人たちは私を丁重に扱わざるを得なかった。こうして私は従者を伴いながら、以前と変わらない王としての生活を続けることができた。


 だが、依然として死の恐怖が私を支配していた。頭に浮かぶのは、ハウハに幽閉されたワスカルのことだった。スペイン人たちがワスカルを擁立し、私を排除する可能性も十分にあった。戦いに勝利し、確信していた神の加護は、今や私のもとを去ってしまった。


 私はワスカルの生存をひどく案じるようになり、やがて心の奥底で、彼を殺す方法を考え始めていた。

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