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火薬

 マルコナの酒場事件が各地に飛び火し、人々の間で不満が高まっていた。商人たちが「マルコナの殉教者」として負傷した仲間を英雄視するようになった。

 

 それに対し、ワスカルたちは彼らに対する弾圧を強化し、タワンティンスーユにおける正統派の後ろ盾を利用し、鉱山の支配権の拡充をさらに進めた。

 

 多くの商人や鉱山労働者たちが締め出され、地域の支配は次第にワスカルのものとなっていった。鉱山周辺は柵で囲まれ、通行は検問所にいる兵士が監視した。

 

 ここで、商人とはどのような存在だったのか、ここで触れておこう。彼らの多くは地方の下級行政官の出身である。彼らが文字の読み書きや数字の扱いを学ぶことで、政治に加えて経済の観念も根付き、新たな階層として商人が生まれた。

 

 技術革新が生じることで農民という単一の枠組みは崩れ、多様な職業が生まれた。平民の間でも能力による差異が生じ、職業選択が生まれ、人々は労働者として雇用主を変えることすらできるようになった。

 

 そのため、人々は元の行政官に仕えることもあれば、時には自由に移動した。これは、マルコナ周辺に特異的なことであり、それ以外の地域では人々は定められた職務に従っていた。

 

 ワスカルは支配を盤石にすべく、商人たちを次々と経営の場から追い出した。

 

 もちろん、ワスカルたちに鉱山経営に関するノウハウは無かった。彼は鉄を掘りさえすれば、あとは職人を強制徴用すればよいと考えていた。

 

 だが、職人や鉱山労働者たちは商人たちと固い信頼関係で結ばれており、ワスカルに従おうとはしなかった。彼らは自らで主人を選んだのである。その過程で商人たちは労働者の信頼を得るために、さまざまな譲歩を強いられてきた。

 

 ワスカルはそれを理解していなかった。鉱山の産出量は目に見えて減少していった。

 

 代わりに、彼は私たちの大学への干渉を強めるようになった。まず、大学の入り口に兵士を配置し、秩序維持のためと称して監視を始めた。彼らは武装はしていたものの、実際に手を出すことはなく、ただ講義室の扉の前に立ち、参加者の顔を覚えるだけだった。

 

 ワスカルは私に対して、自筆の手紙を寄越した。

 

「尊敬するヤンカラン・インカよ、我らは共に帝国の繁栄を願う者同士である。そなたの持つ知識を、タワンティンスーユのために活用してはくれまいか?」

 

 彼の要請は一見丁寧だったが、その背後にある威圧は隠しようがなかった。

 

 その中でパウリオは言った。

「このままでは私たちの自由すら奪われてしまう。学問とは魂の自由の結果でないのだろうか?」

 

 私は理解し始めていた。自由は、戦ってこそ初めて手に入る。そして、次第に私は、呪われた知識の扉を開くことを決意した。

 

 一方で、商人たちは地方領主クラカの中でも特に非インカ系の血を引く者たちに接触するようになった。「インカ族による支配からの解放」をスローガンに掲げ、経済的利益を餌に、地方の実力者たちを次々と味方に引き入れた。

 

 複雑な経路をたどって、密輸された武器がタワンティンスーユの各地に運ばれ、他民族の手に渡った。チチャポヤ族、カニャリ族の戦士たちが鉄の武器を手にし、商人たちと秘密裏で協定を結んだ。また、北部沿岸の旧チムー王国貴族たちも協力を承諾した。

 

 彼らは、パウリオたちが広めた科学宗教の教えを胸に、各地で声を上げ始めていた。炎の前、講義の場、集会の壇上で。


「知識こそが未来を拓く! 神の声に従え!」


「ヤンカラン・インカこそ、ビラコチャ・インカの生まれ変わりである!」


「地球が太陽を回っているに過ぎない。万物は、科学によって理解されるべきだ!」


 その声は熱狂となり、人々の心に刻まれていった。かつて神殿で語られた太陽の教えは、徐々に影を潜めつつあった。

 

 科学信仰の信者は各地で増加していた。文字による情報伝達と熱心な伝道者の努力のためである。加えて、多くの人々が知識と鉄を求めたためでもある。

 

 その中で、私とルミ・ウルマと少数の側近たちは密かに新兵器の開発を進めていた。ある朝、プキオの地に雷の音が響いた。雲一つない青空が広がる、静かな朝だった。

 

 その甲高い音に驚いた人々は、澄み渡る空を見上げた。そして、その音が果たして本物であったかを疑い、再び寝床に戻った。

 

 秘密の実験は、数ヶ月前から密かに始まっていた。


 まずは、最も厄介な材料――硝石の製造から手をつけねばならなかった。プキオ周辺の農村では、家畜の糞尿をかき集め、藁と混ぜて土中の穴に積み上げた。

 

 そこへ、定期的に人糞を加えて発酵を促す。数ヶ月にわたる発酵の過程では、鼻をつく悪臭が周囲に立ち込め、作業にあたる者たちは、布で顔を覆わねば近づくことさえできなかった。


 やがて、発酵が終わると、土を水で洗い流して抽出液を集め、それを煮詰めて結晶を取り出す。得られた白い粉末こそが硝石である。何度も再結晶を繰り返し、その純度を高めていった。


 次に必要なのは硫黄だった。幸い、プキオの東方にそびえるサバンカヤ火山の噴気孔の周囲には、硫黄鉱が豊富に堆積していた。側近たちは危険を顧みず山へと向かい、鉱石を採取して戻ってきた。


 粗い鉱石は密閉した土器に入れて加熱され、蒸気を冷却することで、鮮やかな黄色の純硫黄が得られた。


 最後の材料、木炭は、高地に自生する低木を炭焼き窯でじっくりと焼いて作った。


 こうして揃った三つの素材を、黄金比で混ぜ合わせる――硝石15、硫黄3、木炭2。これだけでよい。数多の錬金術師と化学者たちが血と汗と命を代償にして見出した、究極の比率であった。


 朝の冷たい風の中で、白く濃い煙が立ちのぼり、霧のように空へと消えていった。私は煙を見つめながら、低くつぶやいた。


「火薬を作りし者に呪いあれ。彼が地獄の業火で焼かれんことを」

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