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圧迫

 商人たち、鉱山ギルドの人々は、王家が本格的に鉱山の採掘権を獲得しに来たことに腹を立てた。それまで、暑さを嫌う、高地育ちの王家の人々がユンガス地方に直接足を運ぶことはなかったのである。だからこそ、半自治的な政治形態が成り立っていたのであった。

 

 そのため、ワスカルの往来は大きな変化を引き起こした。

 

 ワスカルたちはマルコナ周辺で用いられている、鉄製の道具や機械に大変な感銘を受けた。大地では人の背丈よりも大きい歯車が四六時中回転し、地面の岩を砕き、地中から水を掘り出していた。


 彼に言わせてみれば、それは未知の動物のように見えたのである。物が命を持ち、人間の役に立つとは信じられないことであった。

 

 そして、彼はこの有用な道具たちを生み出す鉄の素晴らしいところを理解した。鉄は展性や延性に富み、加工に優れ、また、炭素と組み合わせることで硬さを自由に操作することができた。

 

 銀や金もこの鉄の価値には敵わなかったのである。彼は、鉱山の採掘権を求めて、関係者を当たった。

 

 もちろん、彼は商人ではなかったので、そこに対等な交渉は存在しなかった。彼は採掘権の対価としてクスコ周辺の土地を差し出すといい、小さな商人ギルドを片っ端から追い出した。

 

 それは、ほとんど強制移住という形を取った。商人たちに言わせてみれば、鉄がトウモロコシやジャガイモを育てる土地で代替できるはずがなかった。契約書の言葉はなんの力も持たなかった。

 

 クスコの権力を持つ以上、ワスカルは数万の軍隊を持つに等しかった。多くの者たちが職を失い、マルコナを去った。

 

 商人や鉱山で働く者たちはこの新参者を恨んだ。そして、夜になると鉱山の支柱を燃やしたり、道具を破壊することが増えた。それに対し、ワスカルたちは厳格に対処し、多くの者が死んだ。彼らはマルコナの土地に立派な石牢を作り、そこに罪人を閉じ込めた。

 

 ワスカルたちは公然とクロスボウや鎧、斧槍で武装し、鉱山を周回した。そのため、商人たちはいつもおびえながら過ごすしかなかった。

 

 彼は、マルコナ鉱山での視察をあらかた終えると私の元を訪ねてきた。彼は、以前よりも私に対し、友好的だった。今度は彼の口から私たちがワスカルの王家に協力することを要請した。強制的に鉱山の権利を得ても、精錬法も道具の製造方法も知らなかったのである。

 

「この地に来てから理解した。あなたの教える科学がいかに役に立つものであるかを」

 

 彼は腰に差した剣を撫でながら、椅子に座っていた。彼は父に似た厳しい目を私に注いでいた。ワスカルには野望があった。

 

「私はクスコにいる貴族どもが心底嫌いなのだ。彼らはろくに働くこともせず、王家の倉庫を食い尽くしている」

 

 彼は、声に半ば怒りを含ませていた。

「それに、私が何よりも許せないのはあのミイラの連中だ。私の親族たちですら、ミイラといる時は卑しい乞食にしか見えない。死体に服を着せ、食物を捧げ、寝かせ、時には性交渉すらも行う。あれこそ、私がタワンティンスーユで最も憎む存在である……」

 

「そうですか……クスコのような大都市のことは私にはあずかり知りません。そなたは苦労なされているのですね」

 

「お前は王家の人間ではないが、相当頭が切れると聞く。私が平民と対等に話しているのはお前を尊敬しているからだ」

 

「私の従者が申し上げた通り、私は協力を求めている。悪い話ではない。お前も保護が必要であるはずだ。卑しい商人の連中がいつ襲いに来るか分からないからな……」

 

 彼はそれから、語った。南の地から海を渡り南部一帯のマプチェ族を侵略する計画や、アマゾン一帯まで版図を広げ、コカの生産網を拡大する計画を話した。

 

 彼は北部へと歩みを進める、ワイナ・カパック一行たちに対抗心を持っていたのである。

 

 話の最中、彼は商人に対して侮蔑を隠そうともしなかった。一方で、彼は私には終始友好的に接した。彼が去った後、私は彼の申し出を断った時の彼の態度が変わることを想像して気を落とした。

 

 このように、ワスカルのような旧体制の勢力がマルコナ鉱山の権利を獲得しようとする中で、新興勢力の商人たちはより強く団結した。そして、科学へ入信する人の数は増えた。

 

 馬鹿馬鹿しい肖像画のパンフレットも大盛況だった。弟子のパウリオはますます得意になった。プキオの校舎には入りきらない人間が訪れ、中には物品を献上する人もいた。

 

 パウリオは言った。

「先生、私たちが求めているのは自由です。科学とは自由のためである。先生はそう言われたのではないですか?」

 

 多くの若者たちは自由の意味が分かっていないように思えた。彼らは過熱する世論に流されていた。彼らは、科学こそが真理であると信じ、その忠誠をいっそう強く誓っていった。

 

 ある日、従者が報告をもたらした。北部に行くバルサ船の積荷を調べたところ、空だったということが明らかになったのである。ある商人はそのため、売り手を糾弾したが、積み荷を売った者はすでにこの地を去っていた。

 

 一回だけではない。明らかに鉱山から運び出される積み荷が未知のルートを通ってどこかへ消えていった。北へ行くはずのバルサ船が南へと進んで行くことも増えた。


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