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科学という名の信仰

 大学コレジオは、日ごとに生徒数を増やしていた。1520年8月の時点では、石造りの教室に入りきれない学生たちが庭まで溢れ、立ち見が出るほどの盛況ぶりであった。

 

 若い学生たち—もちろん、年齢は私とほとんど変わらなかった—の野心と好奇心が、薄暗い教室の空気を熱く満たしていた。彼らの顔には、科学や工学が秘める未知の力への憧れと畏敬の念が浮かんでいた。まるで黄金を求める征服者たちのような、貪欲な輝きを瞳に宿していたのである。

 

 ある午後、一人の生徒が授業の最中に手を挙げて質問した。名はパウリオと言い、下級の行政官の息子で、年齢は16ほどの青年であった。彼は威勢のよい声で私を呼び止め、大きく見開かれた黒い瞳で私を真っ直ぐに見つめていた。その眼差しの奥には、純粋な知的好奇心と、それを超えた熱烈な情熱が宿っていた。

 

「先生……」パウリオは少し震え声で切り出した。


 「あなたが教えられたこの太陽の周期運動は、一体どのようにして明らかになったのでしょうか?誰が、この複雑な運動方程式を最初に授けたのですか?」

 

「もちろん、観測によって明らかにされたのだ。原理は至って単純である。太陽の動きは簡単な測量器具—アストロラーベや象限儀—を用いて正確に測定することができる。金星や水星の動きも同じように、根気強く観測を続ける。大切なのは仮説を立てることだ。もっともらしい説—ここでは天体の運動方程式—を数学的に構築し、実際の観測データと照らし合わせて検証する。そうすることで、太陽の周りを地球が公転しているという、最も合理的な結論が導き出されるのだ」

 

 パウリオは「なるほど……」と呟いたまま、その場に立ち尽くしていた。彼の表情には困惑の色が浮かんでいた。

 

 私が太陽系の軌道図を板書している最中も、教室の他の学生たちは互いに視線を交わし合い、ざわめくような小声で何かを囁き合っていた。私の説明が彼らの理解の範疇を超えていることが手に取るように分かった。

 

 パウリオは再び口を開いた。


 「私が尋ねているのはそのようなことではありません。なぜ、その崇高な境地に先生がたどり着くことができたのかを聞いているのです。この数年で突然、降って湧いたかのように、次々と新しい知識がこの地に生まれている。鉄、印刷術、運動方程式……まるで、神がそれらすべてを一度に与えたかのように……」

 

「神などではない……」私は少し苦い表情を浮かべながら答えた。「所詮、人間の長年の努力と積み重ねの結果に過ぎない……」

 

 私は授業を元の軌道に戻そうとした。丁度、最近の私の関心は蒸気機関の原理をこの地に導入することにあった。水力以外の動力源を確保することで、鉱山の排水のような重労働を機械化できるはずだった。そのためにも、彼らに機械工学の基礎を教える必要があった。

 

 だが、若い学生たちの胸に燃える野心と好奇心は、簡単に鎮まるものではなかった。パウリオは教壇の前に立ち上がり、再び授業を遮った。

 

「すべての知識を創造し、我々に伝えてくださったのは先生なのです!」彼の声は教室全体に響き渡った。


「数年前、あなたはこの地にやってきて、鉄鉱石を掘り起こし、人々に素晴らしい恩恵を与えてくださった。正確に日食を予言し、太陽神に選ばれた存在であることを証明された!さらには紙の製法を教え、印刷された書物によって人々に知識の光を与えている。先生こそ神の使者、いや、神そのものではないでしょうか!」

 

 パウリオの熱弁は止まらなかった。他の若者たちも彼の言葉に深く聞き入り、次第に興奮の色を表情に浮かべていった。

 

「私は先生にお仕えするためにここに来たのです!」パウリオの叫び声に呼応するように、教室が学生たちの歓声で埋まった。

 

 彼らは科学の持つ力という一つの側面のみを取り出し、それを宗教的な崇拝の対象として深く信奉していたのである。

 

 その日以降、血気盛んな学生たちは、有り余る思春期のエネルギーを新たな科学信仰の確立と普及に注ぎ込んだ。彼らは新しい科学サイエンスの教えを分かりやすいスローガンにまとめ、私が教えた印刷技術を使ってパンフレットを大量に製作し、市場や広場で人々に配布した。

 

 文字が読めない人々のためには、太陽系の図や蒸気機関の構造などを簡略化した風刺画や図解が描かれていた。絵だけを見ても、科学の力の偉大さが伝わるような巧妙な構成になっていた。

 

 こうして科学は、純粋な知識の体系から民衆の信仰へと姿を変えていった。それは同時に、タワンティンスーユに根深く浸透していた古い太陽信仰に対する反発と革新の象徴でもあった。


 特に商人や職人といった新興の社会階層の人々は、伝統的な階級制度に縛られない新しい価値観として、その教えを急速に取り入れていった。

 

 文字という情報伝達手段は、従来の口承文化と比べて情報の伝播速度を何百倍にも向上させていた。一枚のパンフレットが人から人の手に渡り、その過程で科学への信仰という思想が、まるで病原菌が感染を広げるように人々の心の奥深くへと浸透していった。

 

 パンフレットの中では、私こそが神の教えの真の代弁者であり、古い迷信を打ち破る光の使者であることが繰り返し強調されていた。

 

 信仰の対象が私という具体的な人物に集約されることで、人々は複雑な科学理論を理解する必要なく、容易に新しい思想の世界に足を踏み入れることができたのである。

 

 私は深い困惑と迷いに包まれた。私がプキオの地で実現しようとしていたのは、まさに「ペンは剣よりも強し」という古来の格言を体現することであった。鉄砲や大砲といった武力に頼ることなく、知識と教育の力によって国を内側から強くする。


 それはかつて、ローマ帝国の軍団が、技術的に決して劣らないゲルマン民族やパルティア帝国のような強敵たちを、統一された戦術と厳格な規律によって打ち負かし、地中海世界に覇権を築いたのと同じ原理であった。


 パンフレットには以下のようなスローガンが印刷されていた。

 

「知識こそが未来を拓く——神の声に従え」

 

 私が心から求めていたのは、人々が自ら考え、自ら疑問を持ち、自ら学び、そして自らの判断で真偽を見極める力を身につけることであった。しかし目の前の現実は、彼らが私を神格化し、私の言葉を絶対的で疑うべからざる真理として盲信しようとしている姿であった。

 

 私は夜な夜な、蝋燭の明かりの下で長時間の自問自答を繰り返した。石造りの部屋の中で、アンデスの冷たい風が窓から吹き込む中、私は自分の行動の意味と責任について深く考え込んだ。


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