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太陽が再び昇る

 後に人づてに聞いた話によれば、あのとき、ラマコチャは完全に呆気に取られていたという。


 日食の予言が現実となったことにも当然驚いていたが、彼を真に打ちのめしたのは、水車が人間の手を借りずに自ら回転し、水の力が労働を肩代わりしているという光景だった。


 彼はしばらくの間、その動きに目を奪われていた。まるでそれが、自然の理に背く技術のように。


 やがて彼の視線は、村のあちこちに置かれた「奇妙な物たち」へと移っていった。


 たとえば、子どもたちが読み書きを学んでいた紙の束。そこに記された数式や、太陽と月の運行を示す図。鉄製の斧、鋲の打たれた農具、陽光を鋭く跳ね返す鏡、測量に用いる器具の数々……。


 それらすべてが、彼の知る「タワンティンスーユの常識」から大きく逸脱していた。

 そして彼は直感した――この村には、まだ見ぬ可能性が眠っている。科学サイエンスという力は、単なる技術ではなく、秩序そのものを変える可能性を持っているのだと。


 ラマコチャは抜け目なく、心の中で損得のそろばんを弾いていた。


 一方、人々が前にも増して科学の教えを受け入れ始める中で、ヤチャチク神官は焦りを募らせていた。彼はラマコチャに詰め寄り、私を捕らえるよう命じることを強く求めていた。


 だがラマコチャは首を横に振った。


「まあまあ、焦ってはならぬ。ひとまず、予言は的中した。となれば、彼らを解放するのが筋というものだろう……」


「武器を隠し持っているというのだ!それを反乱と言わずして何と言う!?」


 ヤチャチクは声を荒げた。宗教的権威がぐらつき始めていることに、彼自身が最も動揺していた。


 しかしラマコチャは泰然と応じた。


「調べさせたが、奴らの家からは何ひとつ武器らしきものは見つからなかった。神官殿が言う『反乱の証拠』なるものは、存在しなかったのだ」


「太陽は我々を見捨てたというのか?なぜ祈りの声が届かない……」

 ヤチャチクの内心には怒りが渦巻いていた。あの売春婦――キリャの密告によって恥をかかされたことが、彼の自尊心を強く傷つけていた。


 とはいえ、ラマコチャもまた苦々しい思いを抱いていた。彼はかつて、ワスカル派の王家に取り入り、ナスカへ兵を送るように働きかけていた。その際、婉曲に、だが確かに、「反逆者」が将来の王座を脅かしかねないアタワルパ――つまり私――であることを示していた。


 クスコでは、王が発った後、こうした権謀術数は日常茶飯事となっていた。王家に属する貴族オレホンたちもまた、この出兵に興味半分で加担していたのだ。


 だが今、ラマコチャは風向きが変わったことを悟っていた。彼は夜のうちに、密かに使者を私のもとへと遣わし、会談の席を設けるよう申し入れてきたのである。

 

 会談の日の早朝、私たちは村の外れの高台に集まった。私の側には、従者を含めて十人ほど。それに対し、ラマコチャの背後には、その倍以上の武装した兵士たちが控えていた。


 ラマコチャは、無言のまま私を見つめていた。その目には警戒こそあったが、敵意は感じられなかった。


 やがて、彼は慎重な足取りで私に近づくと、恭しく口を開いた。


「あなたが太陽の代弁者であられるのですね……あなたの教える『科学』という教え、あれは実に興味深い。日食を予言するなど、まるで神話の神が用いる力のようだ」


 彼はお世辞を並べたあと、本題に入った。


「あなたが作られた道具は見事だ。これをこの村にとどめておくのは惜しい。私は行政官たちと話を通す。あなたにはこの地の統治を任せ、この村から『事業』を興そうではありませんか。この地から改革を広げることこそ、王への忠誠だと私は信じているのだ」


 彼の本音は、私の知識――そしてその源である科学の技術――を引き出すことにあった。私は一枚の紙を彼に差し出した。


「ならば、これを使うがよい。これは文字というものだ。ここでは、子どもたちすらこれを読んで学んでいる。科学とは、こうして記され、残されていくものです。それが、未来を築く力なのだ」


 ラマコチャは驚いたようにその紙を手に取った。


「これは……見事な品だ。羽のように軽く、手触りも滑らかだ。これが『文字』なのか?……私には理解できぬ。だが、確かに、力を感じる……」


 彼は、私との知識の差に打ちひしがれている様子は無かった。むしろ、全てが彼にとってはチャンスであった。神官たちとは対照的に、彼は未知を拒まず、貪欲にそれを受け入れた。


 一旦、会談は終わった。彼が私の正体に気づいたのかどうかは、結局のところ分からなかった。ひとまず命の危険は遠のいた。私たちは束の間の安堵を得た。兵士たちも、いつしかその目を緩めていた。


 だが、村には新たな波が静かに迫りつつあった。その後、二人の男がラマコチャの下を訪れた。彼らは鍛冶屋として働く男たちであり、かつてキリャを糾弾しようとした者たちだった。彼らは腰に鉄剣を下げていた。


 男たちは、ラマコチャに向かってこう言った。


「太陽の予言者などでたらめです。あの男が力を持つのは、鉄という金属を手にしているからです。我々が掘り出し、鍛え上げた鉄が、彼を神にも見まがう存在に見せているのです」


 男たちはその言葉に、わずかな復讐心と、そして新しい力への欲望を滲ませていた。


 ラマコチャは静かに頷いた。


「なるほど……鉄という金属があり、それが道具を生み、武器となり、力となる。ならば……」


 彼の目は鋭く細められた。しばし沈黙したのち、彼は紙を差し出し、その余白に鉱山の地図を書かせた。


 数日後、ラマコチャは兵を従え、何も告げずに南へと旅立った。

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