日食が近づく夜
1516年1月。年が明けた。日食の予言の日まで、残された時はもう三十日しかなかった。
鉄製の鎧や剣、クロスボウのほか、盾や槍斧といった新たな武器が、機械の部品という名目で倉庫へと密かに搬入されていく。準備は着々と進んでいた。
しかし、村には常に監視の目があった。神官の手先となり、私たちの動向を密かに報告する村人たちがいた。彼らは常に、我々の改革の隙を探し回っていた。私たちは少数派であり、その影は日ごとに色濃くなっていた。
ある日、鍛冶場で鉄を打っていた男が、打ち終えた鉄槌を脇に置き、汗に濡れた額を拭いながらぽつりと漏らした。
「あなたはこの地に新しい知恵をもたらし、暮らしを豊かにされました。ですが……私や仲間たちが恐れているのは、あなたがその力をもって太陽に背いてしまうことです。反乱者の末路がどうなるか、皆、耳にしています。女も子供も皆殺しにされ、家の跡に塩が撒かれると……」
ナスカの民にトウモロコシの種もみを授けたのは、かつてのタワンティンスーユの人々だった。その恵みに人々は感謝し、王に報いるために私の改革にも従ってきた。
とりわけ若い世代は、征服の痛みを知らぬぶん、その忠誠は揺るぎないものだった。
「安心してほしい。私は太陽に弓を引く者ではない。私が向き合うのは……運命だけだ」
そう口にしながらも、私の心には再び深い孤独の影が差していた。
「だが、人々が変化を望まないのなら……私の行いに、いったい何の意味があるのだろうか?」
本来ならば、戦うべき敵は遥か東から迫るスペイン人たちのはずだった。しかし彼らの足音は、今はまだ遠い。
神は、なぜ私にこの責を背負わせるのか?歴史の重みを、この小さな身体に背負わせて。
だが、迷っている時間は残されていなかった。私は机に広げた地図を見つめながら、完成したばかりの紙を手に取ると、新たな計画に着手した。
マルコナ鉱山はナスカからおよそ四十キロの地にあり、連絡には常に困難が伴った。
そこで私たちは、鉄の車輪を備えた軽量の荷車を製作した。この地で車輪が実用に使われたのは、これが史上初であった。
馬はいなかったが、ラマを繋いだ荷車は一日で鉱山と村を往復できるようになった。かつて数日かかった運搬が、今ではわずか一昼夜で済むのだ。
また、簡易な木版印刷を用いて、アルファベットや数字の学習表を刷り出し、村人たちに配布した。神官派の者たちは、それを手に取るや否や破り捨てたが、興味を示した者たちは人目を忍んで学び始め、やがて私たちに協力の意を示すようになっていった。
読み書きを覚えた数人の従者を鉱山に常駐させ、生産量の記録と出荷の指示にあたらせた。私が険しい山道を越えて通う必要は、もはやなかった。
製鉄においても改良が進み、鉄の総生産量は二倍以上に増加した。工具も武器も十分に揃い始め、戦備は着々と整っていった。一方で神官派は、我々の行動がもはや理解を超えるものとなりつつあることに、苛立ちと不安を募らせていた。
日食は、目前に迫っていた。
私は側近たちを集め、語った。
「百戦百勝が最上ではない。戦わずして敵を屈服させる――それが、最も優れた戦略である。お前たちには、私の言葉の意味が分かるな?」
皆、神妙な面持ちでうなずいた。志は、確かに一つであった。改革のためには、古き価値観と戦わねばならない。ただし、それも最良の方法で。
私は机に広げた地図を指さした。測量の成果により、道、建物、水路、畑……すべてが詳細に描かれていた。
「三日後、太陽が空の最も高きところに昇るとき、日食が起こるだろう。だがその時、何が起こるかは分からぬ。神殿周辺の建物に、武器を持った者たちを待機させよ……あくまで、守るためだ」
私は配置の指示を出し、従者たちは武器を村の各所へと運び、それらを目立たぬよう慎重に配備した。
夕方、私はひとり村の外れへ歩いて出た。地図に記された村のかたちと、頭の中に思い描いた未来の姿を重ね合わせるためだった。
その日、村は不気味なほど静かだった。砂の地を撫でるようにして風が吹き、わずかに積もった砂埃がさらさらと舞っては消えた。水車は一定のリズムで回り、石を打つハンマーの音だけが遠くから届いていた。
私は川沿いを歩き、小高い丘に登った。そこからは、村全体が見渡せた。建物が増え、明かりが灯り、整った道がそれらをつないでいた。
私は思い出していた。かつて、空を飛ぶコンドルとして、この地を見下ろしていた頃のことを。いまや、私は大地に縛られた存在となった。この身体は、この地の水を飲み、この地の作物を口にして生きている。
その生の実感が、熱となって胸を満たしていた。
そして気づいた。ルミ・ウルマも、ヤチャチクも、そしてこの村に生きる者たち一人ひとりも、確かに生きているのだと。
そのとき、不意に背後から女の声がした。
「インカ様……」
驚いて振り返った瞬間、足に履いていた草履が砂に取られて脱げそうになった。
夕陽に照らされながら、風に黒髪をなびかせる若い女が、そこに立っていた。まだ二十歳ほどだろう。不安げな眼差しでこちらを見つめていた。その声と同じように、その顔もまた美しかった。




